いじめの解決に向けて

 

6 いじめの解決に向けて

(1)家庭での取り組み

1)親がいじめに気がつかない理由

① 子ども側の理由としては、自分がいじめられていることで親に心配をかけたくなかったり、親に「もっと強くなれ」と言われるのが嫌だったり、親に告げ口をしたことを知られたらもっといじめがひどくなると考えたりして、子どもが親の前ではいじめに気付かれないように取り繕っているからです。

② 親側の理由としては、わが子はいじめられるような子ではないと楽観していたり、いじめられていること自体を認めたくなかったり、また、いじめは一過性のものだとか、子どもの心に大きな傷跡を残すようなものではないとか、いじめを軽く考えていたりするからです。

このような認識を抱いている親は、いじめがかなり深刻になって初めてわが子がいじめられていることを知らされても、適切な対処ができないことが多いようです。

2)いじめの早期発見

 

 いじめが深刻な状況に陥らないうちに、できるだけ早くいじめを発見することが大切です。そのためには、いじめは誰にでも起こりうるという現実をわきまえて、親は子どもと心の通い合うコミュニケーション<5(1)1)>をとりながら、子どもの生活(服装や金品、表情、感情、考え方、言葉遣い、態度、行動)の些細な変化にも気をつけておくことが大切です。したがって、親が下記の「いじめに気付くチェックリスト」のような子どもの様子に気づいたら、いじめられている危険性が高いと考えて、直ちに5(1)2)~4)の子どもを支え守る行動を起こすようにします。

 

参照:いじめに気付くチェックリスト

1 最近、よく物をなくするようになった。2. 学校のノートや教科書を見せたがらない。3. 親の前で宿題をやろうとしない。4. お金の要求が増えた(親のお金を持ち出している)。5. 学校行事に来ないで欲しいと言う。6. すぐに自分の非を認め、謝るようになる。7. 学校からのプリントや連絡帳などを出さなくなった。8. ボーっとしていることが増えた。9. 無理に明るくふるまっているように見える。10. 学校のことを尋ねると、「別に」「普通」など、具体的に答えない。11. 学校のことを具体的に詳しく聞こうとすると怒る。12. 話題に友達の名前が出てこない。13. 学校に関する愚痴や不満を言わない。14. 保護者会、個人面接で何を話したかを過剰に気にする。15. 寝つきが悪い(悪夢を見ているようで夜中に起きる)。16. 倦怠感、疲労、意欲の低下。17原因不明の頭痛、腹痛、吐き気、食欲不振、体重の減少などの身体症状が見られる。18. 何に対しても投げやりに見える。19.以前は夢中で楽しんでいたゲームなどをあまりやらなくなった。20.理由のないイライラ。21.ちょっとした音に敏感になった。22.身体を見せたがらない(一緒に入浴したがらない)。23.衣服、制服、靴などを、親に隠れて自分で洗う。24.友人からの電話に「どきっ」とした様子を見せる。25.急に今までと違う子と付き合うようになった(不自然な友人関係)。26.以前では考えられないような非行行動(万引きなど)の出現。27.外に出たがらない(外に出たときに周囲を気にしている)。 28.金遣いが荒くなった。29.成績の低下。30.物忘れがひどくなった。31.自傷行為リストカットなど)。32.「死」をほのめかすようなメモ、日記。<山脇由貴子2009より>

 しかし、4(1)で述べているように、大半の家族が該当するとされている機能不全家族においては、親が子どもに経済的・時間的・精神的余裕をもって向き合うことができず、親子が心の通うコミュニケーションをとることが難しいことも事実です。したがって、「親は子どもに道徳的規範を教えよ。」と法律で強制するより、経済社会の改善<4,6(3)参照>が行われて、親子が物心ともにゆとりのある生活を送ることができるようになることが、家庭での親子の心の通うコミュニケーションを取り戻し、いじめの早期発見を可能にするための十分条件だと言わざるを得ません。

(2)学校での取り組み    *凡例 <第n条>:いじめ防止対策推進法第n条     

 

 いじめを予防・解消するために、学校ではいじめ防止対策推進法に基づき、いじめ防止に関する基本方針が定められ<第12条>、それに基づいて学校内のいじめ防止のための組織(いじめ対策委員会など)がつくられています<第22条>。この「基本方針」や「いじめ対策委員会」などの仕組み(改善すべき点は6(3)を参照)を活かして、すべての教職員が意思統一をしていじめ対策に取り組めばよいのですが、その仕組み(校務分掌など)や取り組む主体である教師に関わる問題点を挙げておきます。

1)情報の収集と共有

① 情報収集 

 各種のアンケート調査や心理テストなどを児童生徒に実施したり、「いじめのチェックリスト」や保護者による「観察チェックカード」の提出をお願いしたりして、隠されたいじめの発見に努める<第16条>ことが必要です。

② 情報の共有

 職員室での教師(養護教諭を含む)間での情報交換や、教科・教科外活動や教育相談活動の中で、いじめが疑われる生徒に関する情報を、教師が一人で抱え込むことなく、学年団や所定の委員会などに直ちに報告し、いじめの早期発見と保護者も含めた情報の共有につなげるとともに、その早期解決に努めることが大切です。

2)教育相談体制の充実

 で述べたいじめの心理を考慮すると、日常的に彼らを評価・指導する立場の教師以外の、養護教諭スクールカウンセラーなどがいじめに関わった児童生徒の気持ちを受け止め理解する相談(カウンセリング)体制の充実(予算の獲得が必須)を図ることが必要です<第16・18条>。

 【ストレスマネジメント】

ストレスマネジメントとは、ストレスに対処し、上手に付き合っていくための方法や考え方のことです。例 呼吸法、自律訓練法、構成的エンカウンター、カウンセリングなど

 

① 相談係責任者の持ち時間の軽減

 相談担当者には、個々の児童生徒の事例に即して、ストレスマネジメント精神疾患、あるいは特別支援教育や非行など、心理や教育分野での幅広い知識カウンセリング(相談)などの技術が必要です。また、相談係責任者には、関係教職員や保護者とのコンサルテーション(相談・助言,作戦会議)や研修会の企画・運営、専門医などの社会資源とのコーディネーション(連携)や事例検討会といった業務をこなす資質も必要ですし、相談室業務を円滑に進めていくための相談室の整備や相談便りの発行などの宣伝・啓蒙活動も疎かにできません。

それらの業務をこなすためは、書籍を読んだり講習会や研修会に参加したり、相談室へ常駐したりすることが必要で、そのためには他の校務分掌責任者が要するよりかなり多くの研修時間を要します。このように考えてくると、例えば高校の相談担当責任者には少なくとも、週2時間以上(少なくとも生徒指導責任者と同等)の持ち時間の軽減が必要だと考えます。

 

② 相談係の校務分掌上の独立

 岡山県では、教育相談係は生徒指導の一部だという考え方や、校務分掌のスリム化などの理由から、相談係を生徒課の下位分掌に位置付ける高等学校が多く見られます。その場合、教師側は、生徒の実情に応じて教育相談か生徒指導かを使い分ければよいとしていますが(実際には教育相談ができる教師は非常に少ないので、使い分けはできていません)、生徒から見れば、日頃から服装や頭髪などの一斉指導をしている生徒課(に属している相談係)の先生には、いじめなどの複雑な気持ちは打ち明けにくく、いじめが明らかにされにくくなっていることは大きな課題です。

 

 また、生徒課に属した相談係には、相談業務の他に生徒指導の業務が追加されますので、相談業務を行う時間がさらに不足することになりますし、生徒課の責任者には、相談業務にも精通していることが望まれます。

 そもそも、生徒指導教育相談とは、児童生徒の「いま・ここ」に即して、生徒指導と教育相談の両者が培ってきた「知」を統合したり相補い合ったりしながら、協力して指導・援助していく関係(重複説)が望ましいのです。即ち、教育相談は、健常な児童生徒は言うに及ばず、発達障害精神障害などを抱えた児童生徒に対しても、心の不安や悩みなどを個人的によく聴き、受け止め理解するという部分に特性があるのに対して、生徒指導には児童生徒に対する規律遵守などの一斉指導を行うという特性があります。つまり、相談係と生徒課などは、それぞれの特性が発揮できるように、独立した対等な立場で、お互いが協力したり相補い合ったりしながら、いじめなどの指導に当たらなければ、児童生徒の微妙な気持ちを聴きとったり適切な指導を行ったりすることはできないのです。

 

 

③ 相談室の整備              

 相談を希望する児童生徒は、心に深刻な不安や悩み、ストレスなどを抱えている場合が多いので、殺風景な部屋や、部屋への出入りが人目につくような場所は適しません。児童生徒が安心して出入りし、話すことができる環境を整えるための(合理的配慮(参照下コラム)が必要です。そのためには生徒の相談している声やプライバシーなどの秘密が洩れないようにする場所やルールが必要なのです。 

【合理的配慮】

 合理的配慮とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものである。<障害者権利条約第2条>

 また、書籍と書棚、PCとプリンター、応接セットとカーペット、空調設備、校外と通話できる電信設備(SCや保護者・中学校・児童相談所・病院などの専門機関などとの連携)、給水設備、インテリア小物、箱庭セットや各種検査用紙などの備品を整えることも必要です。<第16・18条>

3)人権教育の推進

① 道徳教育<第15条>

いじめ問題に対処するために教科道徳を推進し、他者を思いやる心や協調性などの徳目を、児童生徒に学校で教えれば教えるほど、児童生徒には「皆と同じように行動しなければいけない」という同調圧力が強まり、いじめを助長する空気(雰囲気)がつくられていく危険性があります。例えば、登下校時のあいさつ運動で、暗い性格や発達障害などの事情で挨拶ができない児童生徒を、「ネクラ・変人」としていじめの対象としたり、オリンピックで「日本チームを応援しない」児童生徒を、「非国民」としていじめたりするようなことになりはしないかと危惧されるのです。

 文科省が教科道徳で示した20あまりの徳目(責任、明るい心、思いやり、礼儀、規則尊重、勤労、公共心、家族愛、愛国心など)を、一時間当たり一つの徳目を取り上げて児童生徒に教えようとすればするほど、児童生徒がもっている個性や多様性は配慮されないで、政府の価値観に基づいたクラス内の同調圧力が高まり、かえっていじめが起こりやすくなるということでは本末転倒です。

 児童生徒が身近な問題(いじめ、授業中の私語、掃除をサボる、ブラック校則、スマホの返信ルール、ジェンダー・・・)をテーマにして、自主的に考え、皆と意見を述べあうことを通して、単なる主観的な(心がけの)問題に終わらせず、その背景となっている様々な問題へとより科学的に問題を解決していく筋道を探っていくなかで、自分たちの道徳性(参照p12コラム)を高めていくような道徳教育(実質は人権教育)であって欲しいと思います。

② 人権教育

 国連の「人権教育のための世界計画」行動計画では、「知識の共有、技術の伝達、および態度の形成を通じ、人権という普遍的文化を構築するために行う、教育、研修および情報である」と定義されています。(中略)つまり、一人ひとりの存在と可能性を大切にする明日の社会を形成するため、市民のエンパワーメント(自分で意思決定し、行動できること)を目ざすのが人権教育です。<生田周二,日本大百科全書(ニッポニカ)>。

【あるいじめ事例における学校・市教委の姿勢】

 Aさんが中学校に入学した直後のB年4月、わいせつ動画を送らせるなどの陰惨ないじめを行った複数の小中学生に囲まれ、川に飛び込んだまま学校に電話し、泣きながら「死にたい」と繰り返し教師に訴えました。その事実が地元の週刊紙に報道された後、道教委はいじめの疑いがあるとしてC市教委を指導しましたがC市教委は、学校などに聞き取りを行うだけで、いじめとは判断せず、Aさんの母親にも「いたずらの度が過ぎただけ、悪ふざけただけだった」と伝えていました。

 当時の教頭談:「10人の加害者の未来と、1人の被害者の未来、どっちが大切ですか。10人ですよ。1人のために10人の未来をつぶしていいんですか。どっちが将来の日本のためになりますか。もう一度、冷静に考えてみてください」

 B+2年2月、Aさんは自死を決行します。同年10月、C市長がいじめと認定し、B+3年3月、市教育長がようやく遺族に謝罪しました。

   <Business Journal  「C・中学生イジメ自殺事件の闇」などより作成> 

 人権および人権保障の仕組みを学び、その知識や技術を身につけることは、公民などの授業で学べば、ある程度は身に付くと思われがちですが、下のコラムを参照してください。学校の管理職や教師、あるいはC市教委などの当事者は、人権に関する知識やそれを保障する技術や力を身に付けていなければならないはずです。

 しかし、C市教委が、遺族やマスコミなどから再三再四、真実を公開せよと求め続けられ、道教委からも指導を受けた後、ようやくAさんに陰惨ないじめ(人権侵害)が行われていたとの認識を示し謝罪するまでには3年も要したのです。その間、学校の管理職や彼らを指導する立場の指導主事は、何を考え指導していたのでしょうか。

 人権学習のは、単に人権を知識として教えるのではなく、ある問題を考える場合、正しい情報を基に得られた児童生徒自身の考えを、皆とよく話し合うなかで、よりよいと思われるレベルまで高めていき、それに基づいた態度姿勢が身につくように指導することです。

 したがって、公民などの授業では、欧米諸国のように講義だけでなく正しい情報に基づいた討論ディベートを含む)を採り入れることが必要です。さらに、そこでよりよく高められた考え方に基づいて、実際に人権を保障する行動がとれるようにするためには、ロールプレイ(役割演技)などの体験学習<第15条>を採り入れて、仲間と共に問題解決に向かって具体的な行動を起こしていくことを学ぶことが重要です。一方、他教科や学校行事と連携し、優れた演劇や文学などを教材として、情動(右脳)の面から人権保障に取り組もうとする動機付けを工夫することも大切です。

 

4)教員の資質の向上

 教師は、児童生徒の人権を守るという正の部分と、彼らの人権を奪うという負の部分を、常に背中合わせに内在させています。あってはならない負の部分として、学校におけるいじめ事例の中では、教師がいじめのきっかけをつくったり、生徒と一緒にいじ

めたり、また、いじめの報告を受けた教師がいじめのもみ消しを図ったり、いじめの定義を我流に解釈していじめではないとしたりするものが少なくないということです。

 いじめなどの問題を解決していくには、できるだけ教師の負の部分を最小に近づけていくと同時に、正の部分を強化して行動に表すことが必要となってきます。例えば、察知したいじめを、校内では影響力の大きい教師や管理職などが関与して隠蔽しようと

している場合でも、児童生徒の人権を守るために、その情報をいじめ対策委員会などに挙げていくことが必要です。あくまでも児童生徒を守るという姿勢を崩さないことです。特に経験の浅い教師には難しいことですが、児童生徒の人権を守る、この最低限の一致点で、一人一人の教師の心を結集させることが大切です(分会役員などの支援が望まれます)。

 

 この問題を解決するためには、まず教師(教師集団)自身が日本国憲法に規定されている基本的人権や「こどもの権利条約」の学習を基礎として、いじめを見抜き解決していく力を養うとともに、その力を児童生徒にどのように教えていくかという指導法などの研修を、個人や有志、学年団、学校、組合、民間教育団体、教育委員会など、様々な機会をとらえて積み重ねていくことが必要不可欠です。<第18条>。

5)学校ストレスの軽減 

 いじめの要因として挙げられている学校ストレスの中核は、「授業がわからない、成績が悪い」「友人関係が上手くいかない」などです。<岡山大学教育実践総合センター紀要,第 10 巻,小学生の学校生活における心理社会的ストレスと心理教育的アプローチ 岡﨑由美子 安藤美華代>

 したがっていじめを起こさない取り組みとして、学校を挙げての「わかる授業」の実践や、いじめや体罰のない部活動指導、あるいは生徒の自主的な活動<第18条>を保障する生徒会の指導などにも、教師は生徒のストレスを増大させないように、よく児童生徒の気持ちや考えを聴きとりながら、日常的に反省的実践を積み重ねていくことが大切です。

 一方、スクールカウンセラーの重要な業務である、児童生徒のストレスを和らげ、彼らの学業や部活動での実力を発揮させる開発的カウンセリング(呼吸法、漸進的筋弛緩法、自律訓練法、イメージトレーニング、アンガーマネジメント、構成的エンカウンター・・・)などを、相談室への来談者にとどまらず、ホームルーム活動と連携しながら、より多くの児童生徒に対しても実践していくことも、いじめ防止には有効だと考えられています。

(3)国・自治体での取り組み

1)いじめ防止対策推進法(以下、「i法」と表記)の問題点

 2011年に大津市で起きた中学生のいじめによる自死事件において、学校と教育委員会の調査およびその結果の公表のあり方が、世間から厳しい批判を受けたことが誘因となり、安倍内閣のもとに設置された教育再生実行会議の提言(道徳の教科化,いじめ対策の法制化など)通り、2013年、i法が与党の議員立法案に野党案を取り込む形で成立しました。

 i法は、それまで軽視されてきた「いじめ」を定義したり、国や自治体、学校がいじめ防止に対する基本方針を作成したり、それに基づいて諸対策を実行していく専門組織の設置を義務づけたり、重大事態への対処を規定したりするなど、教育現場をはじめ国民の間にも、いじめ問題への取り組みを進めていくうえで一定の役割を果たしています。

 <第15条> 学校の設置者及びその設置する学校は、児童等の豊かな情操と道徳心を培い、心の通う対人交流の能力の素地を養うことがいじめの防止に資することを踏まえ、全ての教育活動を通じた道徳教育及び体験活動等の充実を図らなければならない。

 しかし留意すべきことは、教育現場や日弁連などから様々な問題点を指摘されていたことに配慮して、附則にはi法施行後3年(2019年)を目途としてその施行状況などを勘案・検討し、必要な措置を講ずると規定されていますが、残念ながら今まで法改正に至るほどの検討はなされていません。そこで、i法が抱えている主な問題点について考えてみます。

 

① 広すぎるいじめの定義

 第17・18条> 国及び地方公共団体は、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援、いじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言その他のいじめの防止等のための対策が(略)適切に行われる。

 「いじめ」とは、児童等に対して、(略)一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう<第2条>と定義しています。これは学校が種々のいじめに対応しないことを防ぐために広く定義したとの見方もありますしかし社会生活において心身の苦痛を感じさせることがまったくない行為というのはありえないため、例えば「おはよう!」と言って肩をポンと叩いたり、ファッションについて「ダサい」と言ったりしても、相手が心身の苦痛を感じた場合はいじめであると法律上解釈される不都合さが生じています。

 したがって、でも言及しましたが、いじめの中でも暴力や恐喝などを伴い、児童生徒の人権や尊厳を著しく侵害するものと、それ以外のパーソナリティの発達途上で誰にでも起こり得るいじめとは区別して定義して、警察や児童相談所、心理士などと連携して取り組むいじめから、担任の指導の下で生徒同士の話し合い(ホームルーム活動を含む)によって解決を図るいじめまで、事例に即して適切に対処できるように、いじめの定義を改正する必要があると考えます。

 

 第3条> いじめの防止等のための対策は、いじめを受けた児童等の生命及び心身を保護することが特に重要であることを認識しつつ、国、地方公共団体、学校、地域住民、家庭その他の関係者の連携の下、いじめの問題を克服することを目指して行われなければならない。

第4条 児童等は、いじめを行ってはならない。

<第9条> 保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、その保護する児童等がいじめを行うことのないよう、当該児童等に対し、規範意識を養うための指導その他の必要な指導を行うよう努めるものとする。
3 保護者は、国、地方公共団体、学校の設置者及びその設置する学校が講ずるいじめの防止等のための措置に協力するよう努めるものとする。 

② 加害者に対する厳罰主義

 いじめの加害者には厳罰を、被害者には保護をという対照的な対応を規定することにも疑義が生じています。<参照第17・18条>国立教育政策研究所の『いじめ追跡調査 2004-2006』(2009年)によれば、全体の8割を超える子どもが3年間のうち何らかのいじめの加害者になったり被害者になったりしています。またいじめの大半は「仲間はずれ・無視・かげ口・からかう」であることも報告されています。つまり、大半のいじめは同一人物が加害者になったり被害者になったりしているので、本法の定義通りに運用すると、大半の児童生徒に厳罰を与えるという非合理的な指導が行われることになります。

 また加害者には加害責任が問われることは当然ですが、実際には加害者も様々なストレスを抱えているため、精神的ケアや支援を必要としている場合も多いことを考慮する

と、「加害者には指導(罰)、被害者には保護」というステレオタイプの規定は改正しなければなりません。

③ 問題解決の主体者は?

 i法にはいじめを解決する主体としての児童生徒という考え方は見られず、学校や家庭、行政など、上からの対応策しか示されていません<参照第3条>。でも述べたように、実際のいじめは加害者と被害者だけではなく、観衆や傍観者を巻き込んで行われていますので、その解決には彼らの積極的な関与が必要不可欠です。

 

 因みに、我が国の青少年(大人も同様)の自己肯定感は著しく低いという国際比較(内閣府,2019年版「子ども・若者白書」など)があります。これは児童生徒の尊厳や権利、ひいては自分たちの問題を自分たちで解決していく権利が、受験中心教育,形式的主権者教育,生徒の自主活動や政治活動の制限などの影響もあって、教育面でも社会面でもあまり保障されておらず、身近な問題を解決できたという成功体験を積み重ねることができていないことによるものです。

 国連子ども権利委員会(2010年第3回総括所見)が、「締約国が、子ども同士のいじめと闘う努力を強化し、かつそのような措置の策定に子どもたちの意見を取り入れるよう勧告する」とした趣意を踏まえて、i法をはじめとして、教育基本法教育行政学校教育全般に、児童生徒の問題解決力を育て、それを自主的に発揮できるための条文や制度などの抜本的な改正改革が、喫緊の課題となっているのです。

 

④ 個人の内面や家庭教育への国家の介入

 i法では「いじめ防止」の基本的施策として、家庭教育とともに、すべての学校教育活動を通じて道徳教育等の充実を図るとしています<第9,15条>。また子どもにいじめることを禁じたり<第4条>、保護者に子どもの規範意識を養うように強制したり、学校や自治体などのいじめ対策への協力を命じたりしています<第8・9条>。

【GHQによる教育民主化政策】

① 軍国主義国家主義の教化から、生活体験主義の教育(問題解決学習)へ  

*「修身」・「国」・「地理」の授業停止と軍事教練国家神道を教育から撤廃。

共同体よりも個人重視の社会科新設

② 6・3・3・4制の学制

*社会的地位や格差に対応した複線型の学制から、誰にも開かれた単線型の学制

*両性の平等に基づく男女共学

③ 教育行政の民主化

住民の選挙で選ばれた委員が構成する教育委員会の設置

④ 教育指導者講習の実施

子どもの自主性を重んじる進歩主義教育の研修を行うとともに、非民主的教員の追放や教員の適格審査の実施

⑤ 開かれた教員養成課程

一般大学の教育学部で教員養成が可能

学問の自由大学の自治も保障

 これらの規定は、いじめの社会的要因は考慮せず、親の教育力や学校の指導力がないから子どもの規範意識が育たずいじめが起こるとする自己責任論に起因するものであり、早急に見直さなければなりません。児童生徒の内面や家庭教育を、いくら道徳主義や厳罰主義に基づいて善導し規制しようとしても、かえって加害児童生徒の反感を買い新たな攻撃行動を誘発させたり、児童生徒間に加害児童生徒に対する差別意識を植え付けたりして、問題解決を困難にさせることに繋がる危険性があるからです。現にi法の発効後、いじめの件数は大幅に増加しており<参照:平成20年度文科省調査>、道徳主義や厳罰主義の限界が示唆されています。

 子どもの権利条約40条には、「罪を犯したとされた子どもが、ほかの人の人権の大切さを学び、社会にもどったとき自分自身の役割をしっかり果たせるようになることを考えて、扱われる権利をもっている」と規定しています。加害児童生徒や家庭に道徳や厳罰を強調するのは、本人や家庭・学校に自己責任論を押し付け、国や自治体の責任不問にするものです。加害児童生徒に自分たちが尊重されていることを実感させ、ひいては被害児童生徒の人権も尊重することを身につけさせ、自己の課題に真摯に向き合うことができるような指導・支援体制を、国全体で築いていかなければならないのです。

⑤ 被害者側の権利保障の不備 

 児童生徒はいじめから守られる権利を有していること、また学校には児童生徒をいじめから守る安全配慮義務があることを法律に明記し、周知徹底させることも必要です。例えば、いじめに関する調査には、いじめの被害児童生徒とその保護者がその調査用紙の作成から実施にも関わることができ(自由に意見を述べる権利)、またその結果を随時、知ることができるように(知る権利も明記)して、学校や行政側にいじめの事実を隠ぺいさせないようにすることが重要です。いじめを受けた児童生徒の権利保障が最大限に尊重されるためには、早急にi法を改正していくことが必要ではないでしょうか。

 

石漱流         教育民主化政策の変質 

 5で述べた我が国の戦後の民主化政策(参照前頁右コラム)の180度の転換(右傾化、「逆コース」)は、将来の「公民」を育成する教育分野においても強力に推進されています。(参照:6参考資料「戦後の民主化から『右傾化』へ」

① 教育における国の権能の強化

ⅰ)学習指導要領の法的拘束力

 当初は児童生徒の生活や地域の様々な状況に応じて適切に教育を進めていくための、教師の手引きとして作られていた学習指導要領が、1958年版以降、法的拘束力を持つ旭川学テ事件の最高裁判決で確定)基準として教育現場に呈示されるようになりました。教育内容への国家的介入については許されないとも解釈できるが、教育の機会均等の確保及び国的な一定水準の維持の目的のために、必要かつ合理的と認められる教育課程の大綱的な遵守基準としての学習指導要領は有効と判断しました。

 これは、国民全体の意思決定である国会が制定した法律(例学校教育法、同施行規則)に学習指導要領が規定されていることを根拠としたもので、政府や国会の考え方や政策に誤りがないとして、司法の憲法判断を避けたものです。

ⅱ)教科書検定

 文部大臣が、特定の考え方(例歴史修正主義皇国史観)を有する教科書調査官や検定審議会委員(参照右下図)を選定して、学会での定説を記述した部分に修正(参照中国大陸への日本軍の「侵略」→「進出」)を求めて(参照F項パージ)問題となった教科書検定制度が教科書裁判で合憲とされました。

参考: 「教科書裁判」の解説  歴史学者家永三郎(1913-2002,当時東京教育大学教授)が、自著の高校日本史教科書《新日本史》への文部省の検定を違憲・違法として起こした32年にわたる一連の裁判。1965年提訴の第1次訴訟は、教科書検定制度違憲であるとして国家賠償を求めたが、1993年に国側勝訴終結。1967年提訴の第2次訴訟は、文部大臣を相手どって検定行政処分の取消しを求めた行政訴訟で、1970年に原告側全面勝訴の1審(杉本)判決が出たが、高裁での訴訟打切り判決、家永の上告断念で1989年に終結1984年提訴の第3次訴訟は、1980年代初頭の教科書検定違憲・違法として国家賠償を求めたが、1997年に最高裁一部の検定を違憲としたものの、検定制度は合憲として訴訟は終結。<百科事典マイペディアより>

自衛隊違憲判決福島判決)】

 「あの判決は、法律に従って裁判をやっただけのこと。良心の問題だ。1973年、札幌地裁の「長沼ナイキ基地訴訟」一審判決で、「自衛隊憲法9条違反」との判決を裁判長として下した弁護士の福島重雄さん(88歳)は、振り返る。

 二審の札幌高裁最高裁は住民の訴えを認めず、基地は建設された。福島さんはその後、家裁違憲判断をさせないためか。〈福田〉)などを転々とし、「冷や飯」を食わされ続ける形に。それでも、自らの判決について「現行憲法である限り、結論は同じ」と主張は揺るがない。 <東京新聞2019年6月27日> 

 この裁判で原告側は、憲法第26条の教育を受ける権利を、自由権としての子どもの学習権憲法が保障したものとし、この権利に対応する教育の責務を負うのは国民(親)であり、国民の負託を受けた教育・学問の自由を有する教師が教育に当たるものであるから、国は教育内容や子どもの内面的価値に関わる精神活動には踏み込んではならず、親の責務を助成するための諸条件の整備にのみ努力すべきであるとしました。また教科書執筆者の思想内容(学問的見解)を事前に審査する教科書検定は、憲法第21条が禁じている検閲に該当するとともに、教育基本法第10条(不当支配)に違反すると主張しました。

 これに対して被告(国)側は、国が国民の負託に基づき自らの立場と責任において、学習権生存権の一環として保障する権限があり、その権能は公教育の内容や方法にも

及びうるとともに、下級教育機関における教育は、教材や教育内容、教授方法などの画一化が要求されるので、教科書検定は違憲とは言えず、また下級教育機関における教師

の教育の自由には一定の制約が伴うと反論しました。

 最高裁は、政党政治の下での国家介入の自己抑制の必要性などには言及しましたが、国民の教育の自由を制限する範囲目的、あるいは検定の権限や基準などが現行法では

明確に規定されていないので、教科書検定制度を違憲・違法とは判断できないとしました。そのうえで、検定をどのように法律命令などの下位法に委ねるかは、立法権(国会)の裁量に属するとし、結果的には政府の考え方を容認することになっています。

参考:統治行為論「国家統治の基本に関する高度な政治性」を有する国家の行為については、司法審査の対象から除外するという理論〈Wikipedia〉。

 このような立場で。最高裁憲法よりも、有権者の意思が委託されている国会や、その多数派の長が組織する内閣が決定した法律命令の方を重視するということは、憲法最高法規とする法段階説や裁判官及び司法権の独立(参照右コラム)も蔑ろにして、「憲法の番人」として違憲立法審査権を発動して国会や(裁判官の任命権者である)内閣憲政からの逸脱を抑えることなく、三権分立民主主義形骸化を進め、延いては政治の右傾化ポピュリズム衆愚政治)の蔓延を促す一因となっています。

② 教育委員会の任命制

 教育委員会制度を公選制(1948年)から任命制(1956年)とし、教育委員会から首長への予算原案送付権も廃止したので、教育行政の民主的統制(地域住民・保護者・教師の教育行政への参加)が困難になりました。

 前項①の内容と合わせると、自民党教育部会→ 教育再生実行会議内閣総理大臣の諮問機関 参照右コラム)→ 中央教育審議会(文科大臣の諮問機関1952~)→国会文科省自治体の首長教育委員会学校、という上意下達のレールに乗って、自民党の意に沿った教育内容が法律(国会)や命令(内閣)で定められて教育行政が推進され、裁判所がこれを擁護していることになります。当に、我が国の民主主義教育や議会制民主主義が危機的事態を迎えているのです。

③ 教職員の組合活動や政治活動の制限

 「教え子を再び戦場に送るな」を合言葉に、平和教育をはじめ民主的な活動に大きな役割を果たしていた日教組など、組織労働者の3分の1を占める公務員の労働三権を制限政令201号1948年)するとともに、教職員の政治的活動を制限教育二法1954年)し、さらに教職員の管理を強める勤務評定(1956年~)や、最近では教員評価制度2016年)も実施されるようになりました。

教育再生実行会議(2013年~2021年)】

 内閣総理大臣教育改革を提言する私的諮問機関。21世紀の日本にふさわしい教育体制の構築を目的とした。2011年の大津市中学生いじめ自殺事件を契機に、安倍晋三政権下の2013年に発足し、2021年の岸田文雄政権発足で廃止された(後継組織は教育未来創造会議)。

 教育再生実行会議の提言に沿って、中央教育審議会が具体策などを協議し、必要な法整備や予算措置に取り組んだ。いじめ防止対策推進法創設などの法整備のほか、大学入学共通テストの創設、小学3年生からの英語教育、道徳の教科化などの実現につなげた。内閣総理大臣官房長官文部科学大臣ら閣僚と20人以上の有識者で構成。

日本大百科全書 矢野武 より作成>

 

この動きは教頭法制化(1974年)、主任制度(1975年)、主幹・指導教諭設置(2010年)などの中間管理職の増設(参照右下図)との相乗効果を生み、今や教職員労働者の組合組織率は20%近くに落ち込んできた結果、実態にそぐわない公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(定数法1958年)や、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法給特法1971年)の改正がなされず、教師の劣悪な労働条件の改善が行われないのです。

一方、国家による教育内容の統制侵略戦争の美化、戦争放棄の無視など参照教科書検定)とも相まって、教師や児童生徒の内心(精神)の自由などへの侵害も公然と行われるようになってきています。

例「日の丸」の掲揚や「君が代」の起立斉唱の強制、理不尽なブラック校則など

 

 

2)教育基本法の改正

教育への国家の介入を決定づけたのが、2006年に行われた教育の憲法ともいわれた教育基本法(以下:旧法)の改正です。その改正教育基本法(以下:新法)の問題点を挙げておきます。

 

① 国家による教育や国民の内面への介入

 旧法では、第10条「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきもの」であり、「この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない」と規定しています。これは、教育行政政府特定の団体に対してではなく、国民全体への責任を持って行われなくてはならないということと併せて、教育内容に介入することなく、必要な教育環境の整備のみを行うとして権力による教育統制を禁じたものです。

 ところが新法第16条では「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」であり、「国は、(略)教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならない」と規定し、国家による教育の支配も国民の内面への介入も、それらを可能とする法律(例学校教育法、同施行規則など)によって認められるという規定になっています(参照「悪法も法なり」。自衛隊法。教育二法)。

② 恒久平和主義の否認

 

 旧法が、前文で「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な日本を建設し、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。」と明記しているのに対して、新法では、「我々日本国民は、たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な国家を更に発展させるとともに、世界の平和と人類の福祉の向上に貢献する」と記しています。これは、政府の行為によって引き起こされた悲惨な戦争の史実や、その反省から多数の国民に支持された恒久平和主義などの立憲の精神、あるいはその教育版である旧法の精神には一切触れていません。

 この改正は、戦争もなく平和で民主的な日本をさらに発展させ世界平和に貢献するために、戦力による攻撃には戦力で対抗していくという「平和主義(実体は軍国主義)」を、教育の場に持ち込むための布石となりはしないでしょうか。

③ 儒教的(封建的)で従順な人格の育成

 旧法第1条では、教育は「自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」として、自由で生き生きとした人格の形成を目指すものとしていました。

 これに対して新法第2条では、「道徳心を培う」、「公共の精神に基づき」、「伝統を尊び」、「我が国と郷土を愛する」など、政府が重要視する儒教的、封建的な徳目<参照 (2)3),次頁コラム>やものの見方・考え方などを教え込まれ、「公共(お国)」のために忠誠を尽くす人格を育成することを教育の目標として掲げています。

④ 教育的責任の家庭への押し付け

 新法第10条では、「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有する」と規定し、いじめや不登校などの教育問題最大の責任家庭にあるとする考え方を示しています。これは教育問題に対する教育行政や格差社会の影響を軽視する誤った認識に起因するものであり、政府の教育問題に対する責任逃れを正当化するものに他なりません。

⑤ 教員は誰に奉仕するのか?

 

 【臨時教育審議会(臨教審)】

 1984年に中曽根康弘首相の主導のもと,長期的展望に立った教育改革に取り組むため、内閣直属のかたちをとり設置された。その委員の大部分は教育関係者以外から選ばれた。1985年から 1987年までの3年間に4次にわたる答申を提出し,解散した。

        <コトバンクより>

主な答申

ⅰ)我が国の伝統文化、公立中高一貫校、単位制高等学校、共通テスト

ⅱ)初任者研修制度、現職研修の体系化、適格性を欠く教師の排除

ⅲ)教科書検定制度の強化、個性尊重

ⅳ)生涯学習、変化への対応               ウィキペディアより>

 旧法第6条②では、「法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であって、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない」と規定されており、ⅰ)で述べたように、教員は、文科省教育委員会・管理職、あるいは特定の団体に対してではなく、子どもや保護者などの国民に奉仕するように規定されています。

 しかし新法第9条では、「法律に定める学校の教員は、自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない」と記されているのみで、「全体の奉仕者」との規定は削除されています。

⑥ 9年制の義務教育や男女共学の規定がない

 旧法第4条で明記されていた9年制の義務教育や、第6条の男女共学の規定は、新法では削除されています。「飛び級」などの自由主義的教育政策や、男尊女卑的な考え方の容認につながることが懸念されます。

3)財界の教育への介入

① 個性尊重から学力偏重の教育へ

 戦後の復興から高成長への急激な社会の変容に際し、教育の目標が児童生徒の人格の形成から、財界の要請により国の経済を成長させるため必要な人材を育成することに変えられました。即ち、急成長する第2次産業の労働に耐えうる知識と技術を身につけた人材を大量に育成するとともに、最先端技術をリードする少数エリート技術者の育成へと教育方針が変えられてきたのです<第14回中教審答申1957年など>。そのため、知識と技能の詰め込み教育が強力に推進され、偏差値重視の受験地獄学歴偏重の差別、選別の社会が児童生徒の心理的ストレスを増大させ、校内暴力(対教師暴力から対生徒へのいじめへと変化)や不登校などの教育問題、延いては深刻な社会問題を引き起こす要因となっていきました。

 1973年の石油危機以来、慢性的不況(低成長)期に入り、新自由主義<参照(3)2)>的政策が推し進められるようになると、臨時教育審議会(参照上コラム)の答申に沿った教育改革が行われるようになりました。臨教審委員には、従来の教育政策に影響を与えていた日教組の代表者は排除され、官邸・政治主導のいわゆる「ゆとりの教育」などが展開されたのですが、かえって社会問題化した様々な教育問題(学力格差の拡大教員への統制強化など)をより深刻なものとすることになりました<参照 (2)>。

 一方、激しい受験競争を勝ち抜いたとしても、正規雇用や豊かな生活が保障されるとは限らないという厳しい状況が現れてくると、三無主義(無気力・無関心・無責任)やプライバタイゼーション(社会的な事柄よりも、私的な事柄を優先させる生活態度)が蔓延し、児童生徒や教師の問題意識やその問題解決能力も低下しています。

② 教育制度と児童生徒のストレス

【高校進学時の選抜制度の国際比較】

*米・独・仏:選抜試験は行われない *英:一部の選抜制の中等学校で行う

:基本的に選抜試験がある

 いじめの要因となる「授業が分からない」などの学校ストレスの根本的な軽減策としては、差別・ 選別の教育制度の改善が必要です<参照左下コラム,5(2) >。

 国連の子どもの権利委員会は、子どもの権利条約実施に関する第3回日本政府報告(2010 年)で、「委員会は、このような高度に競争的な学校環境が就学年齢層の子ど

ものいじめ、精神障がい、不登校、中途退学および自殺助長している可能性があること」の懸念とともに、「子ども同士のいじめと闘う努力を強化し、かつそのような措置の策定に子どもたちの意見を取り入れる」よう勧告しています。

 

7 おわりに  

 いじめに関わる児童生徒の心理やいじめが起きたときの対処法、さらにはいじめを発生させないための解決を妨げている社会の情勢などについて述べてきました。留意すべき点は、発達途上の児童生徒の自我や対人スキルの未熟さから、誰でも加害者や被害者になりうる「からかい」程度の暴力を伴わないいじめ(教師や親に注意されたり、ホームルームで話し合ったりして解決する)と、加害者の心の闇が表面化した暴力や恐喝、あるいはネットを悪用した陰惨ないじめ(学校と警察や児相、精神科医や家裁などとの連携により解決しなければならない)とは区別して考え、対応する必要があるということです。

 どのようないじめの指導でも、家庭や学校の在り方に起因する児童生徒のストレスの影響を考慮することが必要です。特に陰惨ないじめを引き起こす事例では、虐待や家庭崩壊、生活苦(貧困)などによる家族が持つ本来の機能が失われていること(機能不全家族)から生じる家庭ストレスや、授業についていけない問題や対人関係の問題などから生じる学校ストレスの影響を十分把握して、指導支援を進めていく必要があると思われます。

 しかし現実の社会は、新自由主義政策が推し進められることにより経済格差や生活苦が増大し、機能不全家族が拡大再生産されています。また戦後の民主化政策を180度転換して戦前社会に回帰させようとしている政治が、民主主義を形骸化し、国民の自由や権利を侵害し、教育現場では教職員や児童生徒の学校ストレスを増大させる方向で動いています。さらにインターネットやSNSの普及が大半の児童生徒に課せられている塾通いと相まって、児童生徒のコミュニケーション能力メディアリテラシー(参照前頁コラム)、延いては問題解決能力までも損なっています。

 その結果、児童生徒の家庭ストレス学校ストレスは増大し、問題解決能力どころか問題意識さえ持たない児童生徒が増加しており、いじめ増大、かつ深刻化している状況が生じていると考えられるのです。

 

石漱流 「石川や浜の真砂は尽きぬとも世に盗人の種は尽きまじ」と辞世の歌を残した江戸時代の大泥棒(参照右図)が喝破したように、厳然とした貧富の差が存在している社会では、捕まれば厳罰が下されることが分かっていても、生きていくために盗みを働く者は後を絶ちません。しかし皆が真面目に働けば、人間らしい生活が保障される社会であるならば、その種の泥棒は少なくなるでしょう。心がけを変えるより社会を変える方がより現実的なのです。

 同様に、機能不全家族内で発生する家族ストレスや、激しい競争、あるいは不合理な束縛を受けることなどに起因する学校ストレスなどが少ない社会になれば、いじめの発生もかなり抑えられるのではないでしょうか。

 そのためには、6で考えてきたように、児童生徒一人一人の人権を大切にするような教育、それを保障する政治や経済・社会が実現されなくてはいけません。そのような政治や社会を実現していく主権者を育てる教育の在り方が問われているのです。

1)社会を生き抜く力の重視

 このようなストレスフルな社会情勢の中で、学校教育では、自立した個人が知恵を出し合い協働して創造的に問題解決を図っていくといった「社会を生き抜く力」を身に着けさせることに重点を置いた教育が求められるようになってきています。<「諸外国の教育改革に見る21世紀型の資質・能力と学びのイノベーション」2016年,国立教育政策研究所 松尾 知>。

 学習指導要領に基づいた知識を詰め込む授業を真面目に受け、学習塾にも通ってよい成績を収めるだけでは、身に降りかかったいじめやブラック校則などの身近な問題さえ主体的に解決していくことができない、権力に従順な「公民」が育っていくばかりです。

 そこで平和や人権、差別、エネルギーや環境、富の偏在と貧困などのグローバルな問題にまで、メディアリテラシーを養いながら自分でよく考え、仲間と知恵を出し合って話し合い問題解決を図って共に行動していく力社会を生き抜く力)を児童生徒に身につけさせることが、学校教育の今日的課題となっているのです(参照 (2)3))。

2)教師の「社会を生き抜く力」

 児童生徒に社会を生き抜く力を身につけさせるためには、教師自身がその力を身につける必要があります。教師が過労死するような過酷な労働条件の下で、教材研究の時間も児童生徒と接する時間もない状態で、自らの問題を解決しようとする気も起らず、教職に対する生きがいや未来への展望も持てない姿を生徒にさらしているとしたら、児童生徒のみならず国民にとっても不幸です。

 喫緊の課題としては、教員の定数法を大幅に改善して「30人学級」を実現したり、教員に対する過剰な管理・統制を緩和したり、給特法を改善するとともに部活動の指導や校外補導などを改善して教師の健康や生活の向上を図ったりするなどして、教師ができるだけ授業やホームルーム、部活動に心おきなく取り組むことができるような労働条件教育制度を整える(参照 (2),6(2)4))等々のことが必要です。

 

 これらの制度改革を実現させるためには、教師が主体的に団結して自らの労働権をはじめとする人権を保障させる運動を、様々な障害(組合差別や同僚性という名の同調圧力、あるいは職場などでの孤立やプライバタイゼーションなど)と闘いながら、同じ要求を掲げている人たちと連帯して広げていく不断の努力日本国憲法第12条>を続けていくよりほかはありません。(参照写真)

 このような努力を続けている(社会を生き抜く力

身につけている)教師こそ、いじめ問題などに悩まされている児童生徒に胸を張って指導支援していくことができる教師であり、そのような教師の生き様を見せることによって、児童生徒の社会を生き抜く力も育っていき、いじめをはじめとする様々な社会問題の解消にも繋がっていくのではないかと考えています。

 

 

石漱流   いじめへの無関心は、戦争への道

 いじめのような身近な問題を、単に道徳(心がけ)の問題として対応するのではなく、人権を保障するという観点から、自ら考え仲間と協議・協力して、制度(社会)を変えて問題を解決していくように皆が努力するならば、様々な差別原発戦争などのグローバルな問題も解決していくでしょう。

 しかし身近な問題にさえ皆が関心を示さないような自己中心的社会であるならば、いくら戦争放棄・戦力不保持・交戦権の否定という理想的かつ現実的(注4)な平和憲法を持っていても、いつの間にか自・他国の人間の生命を大量に奪う「戦争をする国」(注5)になっていくことは、我が国の戦後史(参照p37)が証明しつつあるところです。

 

(注4)現実的核兵器使用を公然と脅迫の手段とするロシアなどの存在が、「核抑止論は幻想であり、核戦争を防ぐためには核廃絶しかない」という判断を裏付けたので、日本国憲法恒久平和主義の規定は、軍備増強論や勢力均衡論よりも現実的な理念となっているのではないでしょうか。

(注5)戦争をする国:「自国の平和を守る」ためには、違憲である敵地攻撃能力を持つことを閣議(国会無視=政権独裁)決定し、そのことをマスコミ国民もほとんど批判しない国〔世界有数の軍事力を行使して、敵地真珠湾・仏領インドシナ)を先制攻撃し太平洋戦争を始めたが、2000万?に及ぶ他国の人命を奪い300万余の邦人の命を失った挙句戦争に敗れた歴史的事実から目を逸らし学ぼうとせず)、反省もしていない国会議員や彼らを選んだ国民が多い国〕。

 

参考資料: 戦後の民主化から「右傾化」へ   <福田 2023.1>

 

戦前の社会

天皇主権/軍国主義

戦後の民主化

(民主主義/恒久平和主義)

 現在の社会―「新しい戦前 

 (与党の専横・軍事大国)

 

・マスコミ

など

 

◆教育の国家統制

教育勅語(命をかけて天皇を守る赤子(せきし)の育成)。軍事教練

修身(封建的儒教道徳)

国史現人神中心の神話と歴史)。天皇制賛美の「君が代」→国歌。 

男女別学 

*差別的複線型学制 

教育委員会の任命制

 

マスコミの国家統制

報道規制大本営発表検閲→発禁・発刊停止)

思想・宗教弾圧無産政党キリスト教)。非国民

◆民主主義教育

教育基本法自由で生き生きとした人格の形成、主権者教育人権尊重平和教育、国家等の不当な支配を排除

教育勅語・修身・国史・軍事教練などの停・廃止。「君が代」・「日の丸」の使用禁止。

*問題解決学習の導入。

*男女平等→男女共学

*平等な単線型学制

教育委員会の公選制

◆報道・取材の自由

自由権の保障・差別禁止

◆教育への国家介入

教育基本法改正(国家に従順な人格の育成)*教科道徳儒教的で人権意識に乏しい道徳観

学習指導要領の準法律化

*検閲的な教科書検定→平和・人権教育の後退 *国旗・国歌法成立 *中高一貫校飛び級・学区自由化 *教育委員会の任命制 

マスコミの変質商業主義・政権への忖度・右傾化) *ネット社会 世論操作 *ポピュリズム政治的無関心の蔓延 

思想差別(学術会議への政府介入。反共・ヘイト・ネトウヨ

 

 

大日本帝国憲法

天皇主権。新しい身分差別

*臣民としての権利と義務

統帥権独立(天皇が世界有数の陸海軍の最高指揮権者)

*日・独・伊三国同盟

神道の国家保持(靖国神社への英霊合祀=精神的支柱)

弾圧立法(新聞紙条例・治安維持法など)→絶対主義的天皇制・資本主義を擁護無産政党・労働運動の弾圧

テロリズム5・15事件。2・26事件など  *家父長制規定(民法)→男尊女卑の徹底

日本国憲法

国民主権象徴天皇制

・女性参政権獲得

基本的人権の尊重

自由・平等・社会権など

恒久平和主義戦争放棄戦力不保持・交戦権の否認。外交による平和維持(武力を手段としない自衛権行使)

戦犯追放と政治犯釈放

*弾圧立法の廃止 

政治活動・労働組合活動の保障

政教分離 *家父長制廃止→女性の財産相続や親権を保障→女性の地位向上

憲法(第9条)改正の動き

小選挙区(大量の死票

行政権の拡大三権分立形骸化

日米安保体制強化解釈改憲自衛隊世界有数の戦力安保法制敵基地攻撃可能〕→米軍と自衛隊の一体化。米の核の傘依存

公安条例秘密保護法 

戦犯釈放レッドパージ *公務員の労働三権・政治活動制限労働組合活動の低迷 *政教癒着神道政治連盟日本会議国会議員懇談会。「統一協会」。創価学会など)

*旧社会党委員長暗殺。三矢研究

性別役割分業LGBTQ問題など

 

 

自由主義(経済活動の自由)→独占資本主義(財閥の政財界支配。恐慌・不況の頻発。失業者増大(兵士の創出)

貧富の差拡大

兵器生産・輸出入

*海外市(東・東南アジア)獲得競争太平洋戦争

国債の日銀引受け(戦費捻出)→戦後の悪性インフレ

寄生地主による農村支配

修正資本主義〔財政・金融政策による景気対策(恐慌の回避)。所得格差是正累進課税強化)〕→福祉国家

財閥解体独占禁止法(米国の方針転換で財閥温存)

*占領地の返還〔課題千島列島放棄対日平和条約第2条)←ヤルタ会談<米・英・ソ>〕*兵器生産・輸出入禁止 

農地改革(農村民主化)

新自由主義(大衆課税を強化し大資本を優遇福祉国家の後退

旧財閥の再編・強大化

長期不況貧富の差拡大内部留保増大、産業空洞化国際競争力の低下) *日銀の大量の国債引受と膨大な株式保有金利引上げ抑制(→インフレの危惧)

北方領土尖閣竹島問題 

軍需産業の復活・急成長

*「無農政」→過疎食料安保

 

主要参考文献

・ 実践入門教育カウンセリング 小林正幸 編著 2001 川島書店

・ 虐待と非行臨床 橋本和明 2011 創元社 

・ 現代のエスプリ「いじめの構造」 高塚雄介編集 2011 ぎょうせい

・ 教室の悪魔 山脇由貴子 2009 第7刷 ポプラ社

・ いじめのある世界に生きる君たちへ 中井久夫 2016 中央公論新社

  • 学校内弁護士 神内 聡 2016 日本加除出版
  • いじめ解決の政治学 藤森 毅 2013 新日本出版社
  •  いじめ・ジェンダーと道徳教科書 大和久勝 他 2019 クリエイツかもがわ
  • ロジャーズ全集4 ロジャーズ 伊藤博 編訳 1968 岩崎学術出版社
  • 学校カウンセリング 氏平寛 2000 培風館
  • 現代のエスプリ「学校心理臨床と家族支援」 亀口憲治編集 2001 至文堂
  • 学校教育相談 理論家の試み 大野精一 2 ほんの森出版
  • 学校教育相談 具体化の試み 大野精一 4 ほんの森出版
  • 学校教育相談における自律訓練法の活用に関する研究 福田 求 2003 岡山大学大学院修士論文
  • 親に壊された心の治し方 藤木美奈子 2017 講談社
  • 動作とイメージによるストレスマネジメント教育 基礎・展開編 山中寛・冨永良喜 編著                   2000・1999 北大路書房

いじめへの対処

 【傾聴・受容・共感的理解とは?】

  子どもが心を開いて心の痛みを親に話してくれるようになるには、「今、ここ」に居る子どもが何を考え、何を感じているかを、純粋な心で(親が抱いている先入観や常識、子どもへの期待、あるいは他人や平均値と比べて子どもを評価する考え方などは一切脇に置いておいて)、ひたすら(反論や説教をしないで)聴く傾聴する)ことです。

  そして話の内容が親から見て明らに誤ったものであったとしても、「この子はこのように考えているのだ。」と肯定も否定もせず(褒めも反論もせず)に受け止め(受容し)、あたかも自分がこの子の立場だったら、そのような言動をとるだろうと思った(共感的理解ができた)ら、「私があなただったとしても、あなたと同じようにするかもしれない。」と、理解できたことを伝えましょう。そうすることで、子どもは「親が自分のことを分ってくれている」と思い、親を信頼し、心を開くようになるのです。

5 いじめへの対処

(1)家庭での指導

1)いじめられている子どもの心を支える

 子どもより人生経験や社会生活を送る上での知識や技術に長けている親は、子どもの話をよく聞かないうちに、子どもを低く評価したり親の判断を押し付けたりしがちです。そのような親が、子どもから「いじめられている。」と打ち明けられた時は、どのように接すればよいのでしょうか。

 まず、親は子どもを一人の人間として尊重し(子ども扱いしないで)、子どもの話すことをひたすら傾聴し、子どもの気持ちを受容することに努めます(参照右コラム)。そして「よく話してくれたね。いじめは犯罪行為だから、いじめる方が一方的に悪く、あなたは悪くないよ。私はいつもあなたの味方だからね。」と言って安心させ、折れそうになっている子どもの心を支えることが大切です。

 さらによくわからない点は納得するまでよく聴いて、共感的理解を示し(参照右コラム)、「解決は学校に任せ、解決するまで学校には行かなくていいよ。私にできることは何でもしてあげるからね。」と言ってあげることです。そのような親を子どもは信頼し、いじめられた経験や辛い気持ちなども話すようになり、いじめをなくそうとする前向きな気持ちになっていくのです。 

2)いじめの事実を文章化する

 次の段階としては、いじめの事実を確認しそれを文章にして記録することです。子どもが受けたいじめについて、いつ、どこで、誰に、どのような行為を受け、どのような心身の苦痛を味わった(ている)のかを文章にまとめて記録します。これは、いじめかどうかを判定する重要な資料になります。加害者・学校を相手に真相を究明したり、いじめの再発を防ぐための話し合いを進めていったり、加害者との話がこじれて訴訟になったりした場合には、有効な資料となるものです。 

3)学校にいじめの解決と再発防止策を要望する

 前項で作成した文書をコピーしたものを保護者が担当教師に呈示し、いじめの解決を学校側に依頼します〔いじめを解決して児童生徒の一人一人に学習権をはじめとする人権表現の自由、幸福追求権など)を保障する責務が学校にはあるからです〕。念のために、同じ文書のコピーを校長宛に送付しておくことが、担当者の段階で報告がストップするのを防ぐためには有効です。

【いじめに関わる学校の責任】

 公立学校の責任(安全配慮義務違反、不法行為責任、国家賠償法上の責任)は、法律で定められた職務を適正に履行しているかどうかで問われます。いじめの場合、「いじめ防止対策推進法」で定められている職務が適正に行われていれば、学校が責任を問われることはありません。ただし、生徒のいじめに加わって生徒の心を傷つけるような不適切な言動をとる教師には、法的責任とは別次元の、人間としての道義的責任や、教育者としての教育的責任が問われることとなります。

 また、加害生徒には人権侵害を理由とする不法行為責任が、さらに、その保護者には、いじめとの因果関係が認められる場合には、監督義務違反を理由とする不法行為責任が問われます。

 一方、いじめを解決するためには、加害者だけではなく、観衆傍観者も指導する必要があります。生徒一人一人が自分のしたことを正しく認識し、被害者の権利や心をどれだけ傷つけたのかを知るためには、ホームルームでの人権教育心理教育(2)2)③参照>を行ったうえで、周到な準備を行った教師の指導によるいじめについての具体的な話し合いが必要です。

 これらのことはいじめの再発防止にもつながるので、被害者側の人権保障の要望を簡潔に文書にまとめて学校側に提出したうえで、どのような対策を講じたのかも文書で回答してもらうようにします。これは、後に学校の責任(参照右コラム)を追及する時にも役立ちます。

(2)学校での指導

 日常の教育活動の中で、次の参照にあるような兆候に教師が気付いていじめを発見したり、学校に何らかのルートでいじめの情報が入ったりした場合の対応について考えていきます。

 

参照: いじめを見抜く教師の目をもつ 

□学級の枠を越えて、他の学級の児童生徒が出入りしていないか。 □学級の枠を越えて、何人かでこそこそと話し、教師の目を避けていない か。 □教師が現れると、急によそよそしくなったり、しらけたりしてしまう雰囲気はないか。 □廊下などで教師の視線から逃げようとしている児童生徒はいないか。 □給食や掃除のとき、いつも特定の児童生徒が当番をやっていないか。 □掃除や休み時間にトイレで群れになっている児童生徒はいないか。□最近、欠席・遅刻・早退が目立って増えてきた児童生徒はいないか。□いつもと表情の違う児童生徒はいないか。□ 何となく気掛かりな行動の児童生徒はいないか。 □ 休み時間や給食の時間にひとりぼっちでいたり、食欲がなかったりする児童生徒はいないか。□ 何となく話したそうな素振りをみせる児童生徒はいないか。□ 授業中の発言、態度、表情、振舞いなどに、これまでとは違った点が見られる児童生徒はいないか。□ 授業中などに、いつも特定の児童生徒が道具の後片付けをしていないか。□ 持ち物がよく隠されたり、落書きをされたりしている児童生徒はいないか。□ 班決めや席替えのとき、みんなに敬遠されている児童生徒はいないか。□ 机や椅子が壊されたり、汚されていたりする児童生徒はいないか。□ 生活の記録ノート、班日誌、作文、絵などにいじめのサインが表れている児童生徒はいないか。□ 保健室へよく行く児童生徒はいないか。□ 机、椅子、ロッカーなどの名前のラベルに落書きをされたり、はがされたりする児童生徒はいないか。□ 授業中などに、ひやかされたり、野次がとんだりしている児童生徒はいないか。<https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/120759.pdf

 

1)学校の指導       *凡例:<第n条>・・・いじめ防止対策推進法第n条

 いじめを予防・解消するために、学校の実情に応じていじめ防止に関する基本方針が定められ<第12条>、それに基づいて学校内のいじめ防止のための組織(いじめ対策委員会など)がつくられています<第22条>。

  いじめ対策委員会は、生徒の命や心身のケアを最優先する原則に従って、生徒の心のケアやいじめの概要の把握、それに基づく指導などを、学校を挙げて積極的に取組むための組織です<第23条>。

 いじめの情報を受け取った教師は、一人で抱え込むことなくいじめ対策委員会(管理職、生徒指導担当者、教育相談担当者、学年主任、養護教諭、該当生徒に関係する教師、スクールカウンセラーなどで構成)の開催を要請し、チームでいじめ問題を解決す

る体制を始動させます<第22条>。

 例:いじめ対策委員会での役割分担

  いじめに関係する児童生徒の気持ちや心身の苦痛を傾聴する係、加害生徒や観衆の指導を担当する係、いじめの全容を明らかにして関係生徒を指導する係、クラスの生徒へのアンケート調査や心理教育を担当する係、保護者や教育委員会地域資源などと連携する係など

 

 ただし、重大事態(生徒の生命・心身または財産に重大な被害が生じたり、生徒が不登校を余儀なくされていたりする疑いあると認められた場合)に対しては、いじめ対策委員会は、質問票の使用や個別面接などにより、重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行い、生徒とその保護者に対し、その調査結果を適切に提供することが義務付けられています。<第28条>学校は、教育委員会を通じて、重大事態が発生した旨を、知事に報告し、知事は必要が有れば三者委員会を設けて調査を行い、その結果を議会に報告しなければなりません<第30条>。

【加害者や学校とのトラブル】

加害者や学校が「いじめは存在しなかった」と主張したり、いじめの事実を隠ぺいしたりする場合や、刑罰法令に触れたり損害賠償を請求したりする場合もあります。学校内では問題が解決できない場合は、学校における法律問題に詳しい弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。

 また、いじめが解決するまで、被害者からの要望があれば、加害生徒別室登校<第23条>させたり、いじめの被害生徒に学校に来なくてもよい措置(オンライン授業の導入など)を講じたりすることにも配慮する必要があるでしょう。

 さらに、暴力や恐喝を伴ういじめのように、刑事事件に該当する場合は、直ちに警察署に通報するとともに、保護者会での事情説明や保護者へのいじめ防止への協力を要請し、教育上必要がある場合は、加害生徒に対して懲戒を加えることも考慮しなければなりませんし<第25条>、SNSにおける誹謗中傷に対しては、学校からの「書き込み削除」をプロバイダーに請求することも必要です。

【PTSD】心的外傷後ストレス障害

  PTSDとは、生死に関わるような身の危険に遭遇したり、他者が死傷を負うような場面を目撃したりすることで強い恐怖を感じ、そのトラウマが1カ月以上たっても、何度も繰り返し思い出されて生活に重大な支障を引き起こす精神疾患です。英語では Post-

Traumatic Stress Dis-orderと表記し、頭文字を取ってPTSDと称しています。

 とはいえ、加害者を探し出してを与えるだけではいじめの解決には至りません。継続的な相談活動の中で、被害・加害生徒の心のケア(カウンセリングやストレス対処法など)をスクールカウンセラーや専門医などと連携して行うとともに、「いじめがある」とか「同調圧力が強い」、「授業がわからない」などの問題があれば、児童生徒対等に話し合い支えあって安全明るく楽しい学校生活が送れるような学級・学校づくりを、学年団に支えられた学級担任の指導の下、PTAなどとも連携して学校全体で実践していくことが、いじめ防止対策の基礎なのです。

2)生徒への指導と支援  参照(1)

 いじめの指導において大切なことは、犯人探しよりもいじめに関係した児童生徒の心や生活を立て直すことです。被害者は心に深い傷を負ってしまっているので、PTSD(参照右上コラム)やうつ病などの精神障害や、不登校自殺といった深刻な事態に陥ることを防ぐ手立ても必要です。

 加害者観衆も、学校生活や家庭において強いストレスを受けている場合が多いので、単に罰を与えてすませるのでなく、いじめに走る歪められた心の痛みを聴きとり、それを解消していく方向を探らなければ立ち直りは期待できません。

 いじめを黙認している傍観者にも、いじめをなくして明るいクラスを作っていく主体的な行動がとれるように、ホームルームなどでのカウンセリングマインド(参照次頁コラム)を持った教師の指導・支援が必要です。

① 被害生徒 

 まず、「いじめは犯罪なので、いじめる側が一方的に悪く、あなたは絶対に悪くない。先生はいつでもあなたの味方だし、いじめをなくして皆が安心して学校生活を送ることができるように学校全体であなたを支援するからね。」と言って安心して話すことができるを作ることが大切です。そして今、どのような気持ちなのかを予断や偏見を排して真摯に傾聴して受容し、共感的に理解しようとします。

 即ち、いじめ被害者の心理()を把握した上で、いじめられている児童生徒の立場に立ってその訴えを肯定も否定もせずによく聴き受け止め、その心情をくみ取っていくことです。そして感じとった辛さや悔しさ、あるいは先生に告げ口をしたと思われたらその仕返しが怖いという気持ちなどを理解していることを言葉で伝えます(参照(1)1))。

 次に、「相手は大勢でいじめてくるので、親や先生、あるいは警察などの力を借りなければ、いじめを解決することはできないんだよ。決して自分ひとりで立ち向かおうとはしないでね。」と言って、心の負担を軽くしてあげましょう。そして、二度といじめが起こらないようにするために、事実の記録が必要なことを説明し、(1)2)と同様に、いじめの事実と心身の苦痛の状況を文書化します。これをもとにいじめ対策委員会の審議を促すのです。

【教師のカウンセリングマインド】

  どのような生徒であっても、的確な援助さえあれば自分自身の力で立ち直っていくことができることを信じて、生徒の不安や反抗・怒りなどにたじろがないで、「ひたすら生徒の気持ちを傾聴し、しっかり受容して、共感的理解を示す」((1)1参照)ことができる教師の心の在り方のことをカウンセリングマインドと言うようです。

たとえ心理学や精神医学などの専門的な知識や技術を修得していなくても、日頃から個々の生徒を個人として尊重し、生徒の声に耳を傾け、教育活動を真摯に実践反省することを繰り返している教師には、生徒が信頼を寄せ、相談しようという気持ちになっていくのです。

換言すれば、教師としてのアイデンティティ(自己同一性)を確立して日夜努力している反省的実践教師には、カウンセリングマインドが備わっているのではないでしょうか。

 

 一方、本人の希望に応じてクラスの席替えやクラス替えによって被害者の気持ちを少しでもにさせたり、心の傷が大きい場合は、生徒と保護者の了解を得て医療機関などへ紹介したり、また生徒・保護者の希望が強くやむをえない場合には休学や転校も配慮したりするなどの配慮も必要です<第25条>。

 さらに学校生活をよりよく過ごすために、担任相談係あるいは部活動の顧問などが、「友情」や「今後の学校生活や進路・生き方」などについて話したり、現実的なコミュニケ―ションのとり方などを学ぶSST社会技術訓練:人の考え方や思い・感情などを理解したり、自分の思考や感情の伝え方を練習したり、対人関係のトラブルを解決する方法を学び練習したりする方法)に取り組んだりして、自尊感情社会性を育てる支援も必要です。

②加害生徒(観衆を含む)

 加害生徒や観衆となった児童生徒たちには、被害者に接するときと同様に、まず、「何か嫌なことがあったのかな。」と、彼らの気持ちや言い分を傾聴したうえで、彼らの満たされない気持ちや劣等感などを受け止め共感的理解を示します。そして被害者の辛さ悔しさ不安恐れ孤独感、あるいは今までできていたことができなくなった不自由さなども考えさせ、被害者の人権を侵したことへの反省を促します。

 たとえ加害者が観衆たちを巻き込んで、面白がっていじめているように見えても、彼らの強い劣等感欲求不満(親の愛情の飢餓や低学力など)を解消する(親への攻撃性を親に投影したり被害者に転化したりする)ためにいじめに走っている事例では、いくら丁寧に規範意識や道徳観を教え込もうとしても、受け入れてもらえません(彼らが第二反抗期に該当する場合はなおさらです)。彼らを加害者としてみるだけでなく、被害者としての側面もよく理解しようとして接することで、彼らとの信頼関係を築いていくことが指導の第一歩となるのです。このような家庭ストレスが強い事例では、スクールソーシャルワーカー児童相談所などとの連携も必要となってきます。

   スクールカウンセラースクールソーシャルワーカー

① スクールカウンセラーは、カウンセリングを主な手法として、保護者や教職員へのコンサルテーションや関係機関との連係・調整を通して、児童生徒の心理領域)への働き掛けを主として行います。

② スクールソーシャルワーカーは、子どもの環境(福祉領域)への働き掛けを、関係機関との連携・調整を図りながら行うことによって、児童生徒のケアを行うものです。

* 両者は相補いながら教師と連携して、児童生徒の実情に応じた心身のケアを担っています。

 一方、いくら心のケアを行おうとしても全く反省の様子がない場合は、社会性やパーソナリティに偏りがあるかもしれないので、スクールカウンセラー専門医に相談します。また必要があれば、加害生徒に別室登校懲戒など、他の生徒が安心して学校生活を送ることができるような措置をとったり、保護者や関係諸機関などとの連携を密にしたりするとともに、保護者同士で話合わせてトラブルが生じることがないように配慮することも必要です<第22・23条>。加害者に反省の気持ちが出てきたら、被害者の場合と同様に、いじめた事実を文章化していじめ検討委員会に提出したり、今後のクラスメイトとの付き合い方を考えさせたりします。

③ 傍観者

 いじめに無関心を装う多くの傍観者は、「いじめは絶対にいけない」と思っていても、それを行動に移すことができません(参照 (3))。彼らは、親に教えられたり、社会科や道徳などの授業で教わったりして、「いじめたら罰せられる。いじめは犯罪(命さえ奪う人権侵害)だ。命は何よりも大切だ。多様性は尊重されなければいけない。いじめられた人を助けると自分がいじめられる。」など、多くの知見を持っています。しかし、彼らには、このような知見をもとに、自分で、「どうしたら善く生きることができるか」を考え、周囲の人とも話し合ってそこで得られた様々な意見を自分自身にとって最善の行動に結び付けていくようなが身についていないのです。

その力を養うためには、いじめは許さないという一貫した態度で、児童生徒一人一人の人権を尊重し、明るく楽しいクラスづくりを目ざす教師(教師集団)が指導するホームルーム活動が必要不可欠なのです<参照 2),次頁>。

 

3)いじめをなくするホームルーム活動 

① 心理教育 

* スクールカウンセラーなどと連携して、担任は以下の内容を説明し理解を促します。

・ いじめの定義(参照)

・ いじめ不当な人権侵害(犯罪・差別)である(参照)ので、加害者が一方的に悪く、被害者は悪くない(誰にもいじめる権利はなく、どのような理由も認められない)

・ いじめる側は大勢で強いので、いじめを察知したら、事実を正確に親や教師、警察などに通報して、解決を任せたほうがよい(一人で立ち向かったり、泣き寝入りしたりしない)

・ 無関心は、いじめを助長する

・ 学校は全力を挙げていじめから皆を守る(安心して学ぶ権利などの人権を保障する)

・ いじめが解決しない間は、学校は加害者を別室登校にしたり、被害者を自宅学習にしたりする、などの配慮を行う。

 

② 教師自身の権利を守る実践の開示

 教師自らが身近な権利保障の行動を語ることによって、児童生徒に、いじめや差別のない明るい未来は自らの手で切り開くことができるのだという現実的な展望を与える。

 例: 家事・育児の協働(性別役割分業論なども関連付けて話す),組合活動(定年の延長や賃上げなどの交渉),投票行動,種々の署名活動など

③ クラスでの話し合い

 自分がいじめられて困ることは?どのような助けが必要か?自分が果たすことができる役割は? 児童生徒が生の声をぶつけ合い、それらを調整することによって、いじめをはじめとする種々の人権侵害対応する方法考える

 ロールプレイ(役割演技)

 ③で話し合ったいじめに遭遇したことを想定した役割分担(被害者を支える、いじめを仲裁する、教師に通報するなど)を行い、擬似体験を行うことで、実際にいじめが起こったときに適切に対応できる行動力を身につける。

 このような「いじめをなくするホームルーム活動」が展開されることによって、児童生徒の皆が心理教育による基礎知識を基に、個人で考えたことを、小グループでの話し合いから全体への話し合いを経て、実際にいじめに遭った時に有効となる対応の仕方がわかるようになります。その対応の仕方をロールプレイ擬似体験し、感じたこと考えたことなどを皆と話し合い、そこで体験した内容を共有しあうことによって、被害者や加害者、あるいは傍観者たちが、お互いの考え方や感情・行動についての理解も深まり、いじめによる心のわだかまり(不信感、恐怖、不安など)も薄らいでいくとともに、皆が問題の解決に向けて主体的に対応する力が身についていくのです。

いじめの背景

4 いじめの背景

(1)家族社会

 【二つのブラック】 

    長時間労働」と「不払い労働」

 ブラックの一つ目は、「長時間労働」である。文部科学省が2016年度に公立校の教員を対象に実施した「教員勤務実態調査」では、「過労死ライン」(月80時間以上の時 間外労働)を超える教員が小学校で3割、中学校で6割ということが明らかになっている。ブラックの二つ目は、時間外労働の対価が支払われていない、すなわち「不払い労」である。<内田 良,週刊文春電子版2018.5.1>

 核家族少子化の進行<国勢調査総務省 2020年>とともに、親の単身赴任なども増加した<「意外と増えている単身赴任」www.transtru-cture.com>ため、家族間のコミュニケーションをとる機会が減少しています。また受験競争の激化は、子どもの学習塾通いの増加<高校生通塾率の推移(1990年~2015年)Education Career>をもたらし、生身の子ども同士がぶつかり合う「ルール遊び(缶蹴りや草野球など)」などを通した健全な社会化を妨げ、ネットゲームやSNSを介した仮想現実上での貧しいコミュニケーションを余儀なくさせています。

 その結果、生きた人間関係スキルを習得できず、他人の気持ちや考え方がわからない自己中心的な子どもが多くなっています。なかでも機能不全家(参照前頁コラム)の子どもは、慢性的愛情飢餓により自尊感情(自信)が育たず、自他不信無関わがまま冷淡な性格になりやすいのです。

 また劣等感孤独感不安感などを募らせており、そのような心理が自他への攻撃性に転化し、自傷自死に至ったり、いじめなどの他人に危害を加えたりすることで安心を見出そうとすることもあるのです。

 さらに、基本的生活習慣や感情を上手くコントロールできるような適切な生活態度が身についておらず、いじめに関する善悪の判断が甘い子どもが多いと言われています。

(2)学校社会

 先ず、過少の教員定数の下での教師の過重労働<中学校教員の1週間の仕事時間は、OECD平均の1.4倍,2013年>や、それを悪化させる中間管理職の増設や校務(部活動や校外の交通指導なども含む)の多忙化、また教師の精神の自由を侵す「君が代」斉唱の強制や非合理的な校則の押しつけなど、管理体制の強化が進められています。

 その結果、教師が生徒を直接指導する時間や教材研究などに必要な時間が不足したり、教師同士の自主的で自由な研修や情報交換の場が失われたりしています。このような状況下では、教師の抱えるストレスが高まり、労働意欲や生きがいを失うばかりか、胃潰瘍などの心身症うつ病などの気分障害を患ったり、過労死が出現したりする事例も報告されています(参照上コラム)。

 この劣悪な状況を改善するための教員組合組織率低下<1958年では全教員の9割強→2020年には約3割,文科省>は、労働条件の悪化を招くとともに、教師の人権意識の希薄化や職場での孤立に大きな影響を与えており、授業崩壊いじめなどの問題に対する教師の問題解決能力や、生徒指導力の低下に影響を与えていると考えられます。

 

次に、学力偏重主義受験中心主義の蔓延を背景とした児童生徒に対する指導が、テストの偏差値を偏重したり、心や態度を数字で主観的・断片的に評価<活動への関心や意欲などの観点別評価:学習指導要領>したりすることによって、児童生徒の人格やそれを規定している生活全体をよく見、よく聴いたうえで、個々の児童生徒の実態に即して総合的に評価していく視点が疎かになっています。その結果、教師と児童生徒との人格的な触れ合いは少なくなり、保護者も含めた相互の信頼感が醸成されにくくなっています。

 

 岡山県の高等学校ではホームルームの時間が、事務連絡や教科指導などに使われており、前述の教師の指導力の低下も作用して、児童生徒がいじめなどの身近な問題を自主的に解決していく力を育てる場が失われてきています。

 さらに学校教育相談体制の形骸化(他分掌に吸収され、人員も削減される)も進行しており、いじめなどの児童生徒の悩みや不安をよく聴いて共感的理解を深めたうえで、保護者や担任、あるいは他分掌や社会的資源などと連携して問題の解決を進めていく機能が麻痺してきています。

(3)政治・経済・社会

1)政治の右傾化と教科道徳

 いじめ問題の深刻化を背景として、中学校学習指導要領が2017年告示され、教科としての道徳がいじめ問題の解決の旗手として誕生しました。

 しかしその内容は、2006年の改正教育基本法の教育の目標で強調された公共の精神や伝統と文化、愛国心や郷土愛などの徳目道徳の細目)を具体的に授業の場に持ち込むものです。これは憲法で保障され、戦後の民主主義教育で大切にしてきた個人の自由や権利よりも、公共(皆,国家)のために個人の義務を強調する全体主義的傾向を示しており、あたかも戦前の教育勅語(参照次頁)を柱とした「修身」に回帰させようとしているかのようです。

 児童生徒にいじめられた友だちの権利を考えさせる人権教育を推進するのが良いのか、「いじめはいけない」という徳目を押し付ける道徳教育に重きを置くのがよいのか。現政権は、旧態然とした後者を推進していますが・・・。

 

 

     教育勅語は、一旦戦争が起こったら勇気を出して、天皇のために命を捧げることを最高の美徳とする天皇主権下での臣民(個を滅して天皇に仕える人民)を育成するものでした。それは戦後の民主化政策により廃止されましたが、その一部には正しいものも含まれているので、教科道徳で扱ってもよいのではないかとする右翼(参照前頁コラム)勢力が、国会では多数を占め、教科書検定の検閲化や教育基本法の改正・道徳の教科化のみならず、憲法第99条(公務員の憲法擁護義務)に反して第9条の改正や、敵基地攻撃能力の検討などを主張しているのです。 

 この政治の右傾化は、1940年代後半、米国が極東戦略を転換させた〔日本に戦争を放棄させる方針から、「再軍備させて全体主義戦争の脅威に対する妨害物の役目を果たすことができるように」<米ロイヤル陸軍長官演説1948年など>変えた〕ことで加速されます。

 即ち、1950年、冷戦が熱戦となった朝鮮戦争への在日駐留米軍の出動を理由に、(治安維持のためで軍隊ではないと政府は主張した)警察予備隊の創設からサンフランシスコ平和条約日米安全保障条約の締結(1951年)を経て、解釈改憲〔例第9条の「国際紛争」を「侵略戦争」に、「戦力」を「近代戦争を遂行できる実力」などと不当に解釈を捻じ曲げて、憲法第9条がじているあらゆる戦争や交戦権、あるいは戦力(=自衛隊

を合憲とする)を弄して自衛隊を増強し、日本を戦争ができる国にしていく一連の動きが、日米両政府と軍需産業によって推進されているのです。

 

 教育で注目すべきは、1953年に行われた池田・ロバートソン会談です。その覚書には我が国の再軍備を妨げている要因として、憲法の平和主義などの他に「教え子を再び

戦場に送るな」とする平和教育があげられており、「日本人が自分の国は自分で守るという基本観念を徐々に持つよう日本政府啓蒙していく必要がある」との方針が、日米政

府間で合意されています。この違憲の方針に従って、いじめ対策を前面に掲げながら、実は自分の国は自分で守る国心などを強調する教科道徳を、全国の児童生徒に押し付

けているのです。

 また2018年告示の学習指導要領の高校「公共」の「内容の取扱い」の中でも、「日米安全保障条約や我が国の防衛,国際社会の平和と安全の維持のために自衛隊が果たしている役割など」の「基本事項について,広い視野に立って理解できるようにする」と記されています。これは恒久平和主義に反して、自衛隊という戦力を国民に是認させようとする政府の考え方を、検定済み教科書を使用することによって高校生全員必修させる(押し付ける)ものです。正に戦争ができる国家百年の計は、道徳・公民教育にかかっているのです。

2)新自由主義の推進

 1980年代には米国からの金融市場の緩和や外資への門戸開放を目的とした広範囲にわたる規制緩和の要求を受け入れ、新自由主義が推進されました。これは資本主義自由主義)の基本的矛盾である、周期的な恐慌の出現や貧富の差が拡大していくことを、経済政策により是正していこうとする福祉国家(修正資本主義)の歩みを後退させるものです。

 その結果、戦後禁止されていた持ち株会社を中心とした超巨大な複合企業が誕生(財閥が復活・再編)して、グローバル化の名の下に大規模な海外投資が行われたため、国内産業の空洞化(雇用やGDPの減少)をもたらしました。また所得税の累進性を緩くしたり(1962年の最高累進税率75%→2013年は45%)、法人税を引き下げたり(1984年は45.5%→2021年は23.2%:財務省)する代わりに、低所得者ほど税負担率が高くなる消費税を導入して、その税率を引き上げてきています。さらに労働法制の規制を緩和して、低賃金で雇用できるうえ解雇しやすい非正規労働者の雇用の割合を急増させました<1989年:18.9%→2019年:38.3%,総務省労働局調査>。

 【大新聞社とTV局の関係,考え方の傾向など】○付数字は順位

考え方の傾向

リベラル        保守・右翼 

新 聞 社

朝日

毎日

日経

読売

産経

売上高(億円)

1,315③

800④

1,807

3,067

584⑤

T V 局

テレ朝

TBS

TV東京

日テレ

フジTV

売上高(億円)

2,302④

3,583③

1,114⑤

4,064

5,149

岡山のTV局

KSB

RSK

TSC

RNC

OHK

<2022/11/07記事更新 kigyolog.comなどより作成> 

 大メディアの売上高をみると、リベラル派より保守・右翼派の方が圧倒的に多いことから、(明白な事実に基づかないプロパガンダを、検討することなく自分の意見として採り入れている)視聴者の右傾化が予測されます。

プロパガンダの例】「政府の考え方や政策は公正・中立である」「自衛のために敵基地を攻撃する戦力を増強することは当然だ」「日本共産党が政権をとったら露・中のようになる」「野党は政権を批判するばかりで政権担当力がない」「同性婚を認めたら日本社会が壊れる」「電気代引き下げのためには原発再稼働も許される」「教師の指導力不足や家庭の教育力不足がいじめの原因だ」・・・

 一方、日本銀行超低金利政策によって生じた余剰資金は、GPIFの公的年金積立金とともに株式市場に流入し、日本銀行の株式購入(ETF)と相まって不況下の株価上昇をもたらしました。企業は賃金を抑制内部留保(200兆円:GDPの4割,日経新聞社2019年)を増やしたため、消費需要を冷え込ませ成長力を低下させました<1980年のGDPを基準として最近20年間の成長率は、OECD加盟41か国中、日本は最下位,総務省労働局調査>。

 これらのことが、所得格差(日本のレベルはOECD加盟国中33位,ユニセフ調査)をさらに拡大させ、労働者の過剰労働や単身赴任、ひいては機能不全家族を増加させているのです。

3)情報の右寄り・不公平

① マスメディアの商業主義

「いじめたのではなくいじっただけだ」と自己弁護するいじめ加害者もいます。これにはスポンサーが重視する視聴率を上げるために、いじりギャグが売り物のタレントを重用するマスコミの商業主義の影響だと思われます(参照上コラム)。

 そもそもマスメディア自体が利潤追求を第一義としている大企業であるため、視聴者に迎合して視聴率を取れるお笑いやグルメ、旅行などのバラエティー番組や、スポーツ、クイズ、サスペンス、韓流ドラマ、音楽番組あるいは事件・事故の報道を国会中継よりも優先しています。またシリアスな報道番組にも人気タレントをMCに抜擢して、バラエティー化して親しみやすくする反面、国会中継をはじめ、人権や平和などの重要な問題を短時間で浅く、かつ全体の中から政権にとって都合の良い部分のみを扱うことにより、「市民の知る権利に応えることによって、平和で豊かな民主主義社会を実現する」という報道本来の使命(参照左下コラム)をおざなりにしているようです。

日本民間放送連盟 報道指針】(1997年制定) 1.報道の自由 報道活動は、市民の知る権利に応えることによって、平和で豊かな民主主義社会を実現することを使命とする。取材・報道の自由は、その使命のために、市民からわれわれに委ねられたものである。この自由は、あらゆる権力、あらゆる圧力から独立した自主的・自立的なものでなければならない。(略)(2)報道活動は、公共性、公益性に基づいて、あらゆる権力の行使を監視し、社会悪を徹底的に追及する。(3)報道活動は、あらゆる圧力、干渉を排除する。

② 御用メディア

 いつの世も政権側は自らに批判的なメディアに圧力・干渉をかけ、世論を操作しようとします。またメディア側は政権からの情報や営業上の許認可権を得るために、政権に忖度して政権に不都合なニュースや番組は流さないように自主規制したり、政権に批判的な評論家や解説者を番組から降板させたりして、政権を監視・追求することなく、政権の御用団体に成り下がっています。大衆や政権に迎合してポピュリズム衆愚政治を助長するマスコミの体質が、国民の正しい権利意識や、いじめを含む数々の社会問題を見る目を曇らせる大きな要因となっているのではないでしょうか(参照上コラム)。

 【メディアリテラシ―】

テレビ番組や新聞記事などメディアからのメッセージを主体的・批判的に読み解く能力。リテラシーというのは「読み書き能力」のことで、読む力と同時に書く力も含む。情報をうのみにせず、どんな意図で作られ、送りだされているかを自分の頭で判断する。そしてそれを通じて自ら情報発信する力を身につける。そうした試みはカナダなど欧米では早くから学校教育のカリキュラムに組み込まれている(略)

「知恵蔵」隈元信一 朝日新聞記者  2007年

③ ネット社会

 特に若年層にマスメディアの影響力より大きな影響を与えているネット情報は、報道の「公正中立」や対立意見の「両論併記」などの原則には縛られないので、フェイクニュースを含むプロパガンダを拡散することに公然と利用されています。例 ネトウヨやトランプ前米大統領のツイートなど

 一方、視聴者は好みのネット情報にのみアクセスする傾向が強いので、ネット情報は視聴者自身の意見を強化することになり、保守岩盤層(例自民党、米国の「トランプ党」、欧州の極右政党など)の形成に大きな役割を果たしていると考えられます

 また匿名性が高く、不特定多数のアクセスが可能なネットへの書き込みを誰でも容易に行うことができることから、いじめやデマなどを拡散することに繫がっているとともに、そのことへの適切な対処を妨げる要因となっています。またかなりの青少年がネット依存傾向にあり<厚労省2013年>、社会への適応力生きる力を削がれていることも見逃すことはできません。つまり、ネット情報の氾濫は、とりわけアクセス頻度が高い若年層の民主的な人権意識の形成を妨げ、いじめを見る目を曇らせる要因となっているのです。

④ 価値観の多様化

 近年、多様化が尊重される動きも出てきていますが、労働組合に入らなかったり投票に行かなかったり、あるいはヘイトスピーチを行ったりすることも、個人の自由だから許されるという誤った価値観を吹聴するネット情報も見られます。

 【道徳性の発達段階〈コールバーグ〉】 〈「発達心理学」藤村宣之編著2011より作成〉

第1段階 褒められるか罰せられるかという物理的な結果で、善悪を判断する<幼児レベル>。

第2段階 自分の欲求や時には他人の欲求を満たすための手段(行為)が善い行為。

第3段階 他者の意図を考慮し(対人的同調)、他者を喜ばせたり助けたりすることが善い行為。<第2~3段階は児童レベル>。

第4段階 法を守って社会的秩序を維持したり、自分の義務を遂行したりすることが善い行為。  参照 法治主義 <大多数の日本人中学生以上)のレベル> 

第5段階 正しい行為は、社会全体によって吟味され一致された基準によって定められる。法律は絶対的なものではなく、人民の合理的考察によって変更可能と考える。参照: 法の支配社会契約説(絶対専制君主を打倒した市民革命を擁護したJ.ロックやJ.J.ルソーなどが主張・啓蒙した理論)。<第5~6段階に到達するのは、全体の2割程度。>

第6段階 正しさは、倫理的包括性普遍性一貫性に基づいて自分自身で選択した倫理的原に従う良心が定める。 参照日本国憲法恒久平和主義ガンジー非暴力主義オードリー・ヘプバーンユニセフ活動など。 <全体の1割程度が到達>  

 何らかの私的な理由(組合費が惜しい。投票するのがだるい。ムシャクシャするなど)で、憲法で保障された人権を自ら放棄したり、他人を誹謗中傷して苦しめたりする誤った自由や権利などを容認することは、人間らしくない生き方を認めることであり、国民の人権意識道徳性(参照下コラム)、ひいては人生観世界観を混乱させることに繫がっているのではないでしょうか。

 

 D.マッカーサーに「アングロ・サクソンは45歳の壮年に達しているが、日本人はまだ12歳の少年」だと揶揄された頃よりさらに道徳的に後退(注4)しているかのような保守・右翼勢力が、道徳の教科化を実施し、教育や報道を統制して民主主義を形骸化し、我が国の右傾化に拍車をかけているのです。

 

(注4)第2~3段階児童レベル)の道徳性しか有していないと考えられる例

・隠然たる右翼勢力に忖度してか、南京大虐殺などの歴史的事実を歪曲・矮小化したり、公文書を改竄・消去したりする ・政権を批判するようなジャーナリストや学術委員を排除して、報道の自由や学問の自由を侵害する ・自衛のためには敵基地を攻撃して他国民を大量に殺害しても、自衛権の範囲で許されると考える ・自国では受け入れられにくい原発の輸出を図るなど、「自国第一主義」政策を推進する ・多くの賭博依存者を生み出してその家族を苦境に追い込むカジノの誘致に公的資金をつぎこむ ・政党助成金を受け取りながら献金やパーティー券を販売する・・・

いじめの心理

 いじめの心理

 

(1)加害者の心理

 加害者の心理としては、「おもしろいから」とか、「いじめられている子どもに非があるから」というように、自分の欲求不満を「合理化」して、無意識のうちに解消している場合が見られます。特に暴力を伴ういじめの加害者心理的特徴としては、自他への不信感から、仲間と楽しそうに遊んでいても、明日は皆が自分から離れていくのではないかという不安猜疑心、あるいは孤独感などに苛まれており、誰とも親密な人間関係を築くことができない事例が多いようです。

サイコパス日本語訳は「精神病質」。(略)サイコパスの特徴的性格は、冷酷・無慈悲・尊大・良心欠如罪悪感の薄さなど。<知恵蔵miniより作成>

 これは幼い頃から周囲(特に)から虐待などを受けてきた子どもによく見られる特徴です。彼らは、「自分は可愛いがってもらえない存在だ」という根源的な不安不信感が、周囲への攻撃性に繋がっていくのです。また自尊感情が低く情緒不安定でストレス耐性も低いので、何らかのストレスを感じたときには、自らの感情をコントロールすることができずに、衝動的にいじめなどの反社会的な行動をとったり自傷したりして、欲求不満を解消しようとすることが多いのです。

 一方、凄惨ないじめを行った加害者が、いじめを否認したり正当化したりして良心の呵責を感じていない場合は、行為障害〔成人では反社会性パーソナリティ障害(参照サイコパスなど〕なども考慮しなければなりません。彼らには、刑事責任の追及と併せて、精神的なケア(治療など)を受けさせることも必要となってきます。言うまでもなく彼ら加害者が、自からいじめた事実を親や学校に報告することはほとんどありません。

(2)被害者の心理      

 被害者の心理としては、まず「助けを求めたくない」ということが挙げられます。理由としては、親に助けを求めても「お前も悪い」と責められるし、先生も何もしてくれないので「何も変わらない」と考えているからです。また、「チクった(告げ口をした)」として報復されることを恐れたり、親などに心配をかけたり悲しませたりしたくないと考えることも多いようです。周囲に関わられるのを避けて、「黙って逃げ出したい」「遠くへ行きたい」という思いに駆られる場合もあるようです。          

 あるいは、「いじめられていることを認めない」という心理もよく働くようです。それは自分がいじめられている弱い存在であると人に知られるのがあまりにも惨めで、「プライドが許さない」からです。「無視されるよりはいじめを受けているほうがまだましだ」という屈折した心理が働くことも知られています。被害者には以上のような心理が働くので、いじめが発覚して事情を訊かれても、あまり信頼関係ができていない教師などに、いじめられている事実や心身の苦痛を「話さない」・「話せない」ことが多く、いじめが発見されにくく、また解決にまで至らない場合が多いのではないかと考えられています。                                                  

 

(3)観衆や傍観者の心理

 【機能不全家族 

 子どもが心身ともに健康に育つ場としての機能を果たしていない、次のような家族のことを言います。

● 親の性格が未熟で、子どもに対する過干渉、虐待・暴力、放任などによる支配が日常的に行われている。

● 親は子どもには完全を要求するが、無意識では自分より劣っていて欲しいと願っている。

● 夫婦間の不和などにより両親が力を合わせて教育する力が損なわれている。

● 親が特定の家族への対応に追われて、他の家族を思いやる余裕がない。 

 観衆の心理としては、加害者と同様に自分の欲求不満を「合理化」して無意識のうちに解消している場合が見られます。一方、傍観者(無関心者)の中には、「止めたいが止められない」と諦めていたり、「なんとなく見ていた」「まったく気づかなかった」と自らの主体性社会性の欠如を露呈したりする子どももいます。

 また観衆や傍観者は、「他人がいじめられている間は安心だ」と考えていたり、次は自分がいじめの対象となることに不安恐怖を抱いていたりするために、加害者(強者あるいは多数者)に同調する心理同調圧力)に支配されてしまうのです。つまり、主体性(自信)がない子どもたちは、数人のメンバーによるいじめにはなんとか耐えることができても、クラス全員にまでいじめが広がって、「(一人)ぼっち」になることには耐えることができません。そうならないためには、たとえ親友がいじめられていたとしても、保身のためにいじめる側に付いて、そこでの支配的な文化(言動・考え方・ファッションなど)に同化(没個性化)してしまうのです。

 これは現代社会全体に広がっている「他人指向型(注3)」人間の心理そのものであり、ファシズム(個人の自由や権利よりも、国家の利益を最優先する国家主義全体主義的な政治理念や政治体制。例 第二次大戦時のナチズムや我が国の軍国主義など)を支える心理とも言えるものです。「空気を読む」、「忖度する」、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」、「ラインの3秒ルール」などに見られるこの心理は、政権を追及する野党を批判したり、有力者に頼まれた候補者に投票したり、政治的無関心に陥ったり、労働組合に入らなかったりする行動をとらせることに働いているのです。

 

(注3)他人指向型: 社会学用語。外部志向型ともいう。 D.リースマン伝統指向型内部指向型と区別して、現代大衆社会の人間の社会的性格としてあげたもの。この型の人間は,常に他人がどう行動しているかに興味をもち、他者への感受性行動面での同調性によって性格づけられている。またレーダ型の(遠い目標より手近な目標に従う)人間でもあり、を統制するものは彼の内なる不安であるとされる。 <ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典>

 

いじめの定義,形態,特徴

「いじめ」の定義,形態・特徴 

                                                                           福 田  求

                              “ののはな”教育相談

 
   

1 いじめの定義                                        *(注)や太字は福田による

 平成25年9月に施行された「いじめ防止対策推進法」(平成25年法律第71号)においては,「いじめ」を「児童等に対して,当該児童等が在籍する学校(注1)に在籍している等、当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって,当該行為の対象となった児童等心身の苦痛を感じているものをいう。」と定義しています。

 

 同法に基づき,同年10月に文部科学大臣が決定した「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月改訂)では,同法にいう「一定の人的関係」とは,当該児童生徒と何らかの人的関係を指すとされ,また,個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は,表面的・形式的にすることなく,いじめられた児童生徒の立場に立って行う必要があるとされています。

 (注1)小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校、ただし幼稚部を除く

   しかし現場では、生徒がいじめを訴えてきた場合、担任や生徒指導担当者などが、「生徒の心身の苦痛」を聴き取るという観点より、「表面的・形式的」な事実関係の解明に重点を置いて聞き取りを行い、いじめはなかったと判断している場合もあるようです。また教師自身が「いじめと言うよりは『からかい』だ」とか、「あの生徒は皆に構ってもらいたいから、大げさに言っているだけだ」、あるいは「被害妄想だろう」などと独善的に判断している場合も少なくないようです。

実際のいじめは、形式的に教師が事情聴取した程度では発見できないくらい巧妙に、しかも陰湿化しているのに加えて、いじめがあったことを素直に教師や保護者に話すような生徒はほとんどいないということが、いじめの発見段階での大きな隘路となっていると考えられます。

 

2 いじめの形態と特徴                         

(1)いじめの形態

① 小さな暴力を繰り返したり、教師や大人の前では仲の良いふりをしたりして、いじめに気づかれにくくする。 例 コンパスの針で背中を刺し続ける。転んだふりをして給食を床に撒き散らす。

② 「汚い」「醜い」などのイメージを植え付けたり、共犯関係を演出したりして、いじめを正当化しようとする。 例 給食の中にゴミや虫の死骸などを入れておき、それを少しでも食べたら、汚いものを食べた事実を言いふらす。

③ 徹底して恥をかかせ、抵抗しようとする気持ちや判断力を奪い去り、奴隷にしてしまう。

【いじめは、生きる力を奪う】

日々のシカト(無視)が続くなかで、唯一の救い(他者との交わり)が、悪質な「いじめを受けること」であるとしたらどうでしょうか。

「自殺をするのは弱いからだ。」と被害者を責めるような論調も見受けられますが、インフルエンザに罹った人を「身体が弱いからだ」と責めるようなものです。度重なるいじめによるストレスうつ状態を引き起こすと、どんなに強い人であっても「自分は生きる価値がない」と考え、自らの命を絶つようになるのです。被害者を責めることは、いじめの本質に目を向けることを妨げ、被害者の救済やいじめの解決には逆効果となるのです。      <福田>

例: 女子の下着を廊下に貼り出し、もっとひどいことをするぞと言って脅しながら、万引きやエンコー(援助交際)を強要する。

④ 相手の存在を許さないような言葉を投げつける。 例:「マジ、なんで学校くんの?」「あんたさぁ、なんで生きてんの?」「(学校の屋上で)なんで飛び降りないの?」

⑤ ネットを悪用して陰湿にいじめる。

例1: 出会い系サイトに、標的となる生徒の写真付きで「エンコーしてくれる人探している中学生の○○です。メールください」と「なりすましメール」を流す。

例2:ライングループから対象生徒を外したり入れたりすることを繰り返して、精神的に動揺させる。

(2)いじめの特徴

① 動作が遅いとか性格がおとなしいといった「弱い」子どもばかりではなく、「強い」子どもも含めたあらゆる子どもが、お互いに親しいと思われている関係のなかで、いじめの対象となる傾向が高いようです。

② 一人を複数でいじめる傾向にあることから、いじめの首謀者が誰であるかハッキリしておらず、いじめを行う側の子どもが罪の意識を感じていない例が多くなっています。

③ いじめに実際に加担していなくとも、いじめの行為を面白がって見ていたりはやしたてたりする「観衆」や、いじめを見て見ぬふりをしている「傍観者」や「無関心者」が、いじめを助長する役割を果たしています。

④ ネットの匿名性を悪用したいじめがより陰湿化し、被害者に深刻な孤独感を与えたり、ネットの持つ仮想現実性(ゲーム性)が加害者の現実感を損なったり、卑劣な犯罪を行っているという罪悪感を希薄にさせたりしています。

 【2種類あるいじめとは?】

 「暴力を伴ういじめ」は一部の者だけが何度も繰り返し経験する一方で、「暴力を伴わないいじめ」は、多くの者が数回程度の経験にとどまっていることが見てとれます。両者は、同じように「いじめ」と呼ばれていたとしても、異質なものであり、どの子どもにも起こりうるいじめと、一部の「気になる子」が 中心になる(暴力を伴う)いじめとは、異なる対応が求められるのです。<2010年に「国立教育政策研究所」がまとめた「いじめ追跡調査」より> 

「ネット上のいじめ」の特徴

不特定多数の者から、絶え間なく誹謗・中傷が行われ、被害が短期間で深刻なものとなる。

・ 匿名性の高さから安易に書き込みが行われるため子どもが容易に被害者にされたり加害者になったりすることができる。

・ インターネット上に掲載された個人情報や画像は、容易に加工できるので悪用されやすく、また一度流出した個人情報は回収が困難であり、不特定多数の他者からアクセスされる危険性が高い。

・ などが、子どもの携帯電話等の利用状況や掲載された内容などを詳細に確認することは難しい。<「ネット上のいじめ」に関する対応マニュアル・事例集(学校・教員向け,文科省より作成>

・ ラインの返信ルールガラケー時代は3分、スマホ時代は3秒以内で返信しなければならないと言われている)を守らないとライングループから外されるので、スマホを片時も離すことができない状態となっている。

(3)いじめという犯罪

 

 どのような事情があるとしても、人をいじめることは、基本的人権〔参照次頁(注2)〕を侵害することになるので、犯罪に問われる場合があります。

 たとえ、「自分もいじめられたことがあるから」だとか、「いじめなければ自分がいじめられることになると脅されたから」というような理由で人をいじめたとしても、自分の罪が軽減されることにはなりません。いじめは、多数の力を頼みにして少数の人を不幸のどん底に突き落とす卑劣な犯罪なのですから、いじめに加わった人には、法による厳しい裁きが下されるようになっているのです。

参考 犯罪に問われるいじめ

① 廊下ですれ違う時などに、特定の生徒に、「死ね!」・「殺す!」と何度も言った→ 脅迫罪

② 嫌がっている相手に、プロレスの技をかけて痣を作った→ 傷害罪

③ いつも嫌がる相手の手を払って、相手の弁当のおかずを食べている→ 窃盗罪

④ お金や物を「返すから貸して」と言って借りて返さなかった→ 詐欺罪                

⑤ 他の仲間を脅して気に入らない子を仲間はずれにさせた→ 強要罪

⑥ 「キモイ」などと校内やネット上などで、実名を挙げて悪口を言った→ 侮辱罪

 

 

(注2)基本的人権とは?】

私たち皆が、人間らしく幸せに生きるために行使できる権利(基本的)人権と言います。日本国憲法では、基本的人権は何人も永久に侵すことができない権利として私たちに与えられていると規定されていますが、私たちの不断の努力によって保持しなければ、その権利は失われてしまうものだと警告しています〈参照7頁(2)〉。          

 一方、いくら自由が保障されているといっても、人の人権を侵すことは許されていません。いじめを例をとると、言論や表現の自由があるからといってAさんを侮辱する(参照ヘイトスピーチなど)と、Aさんの尊厳や安全に授業などを受ける権利を侵害することになるので、侮辱した人が罰せられることになるのです。  

 

日本国憲法に規定されている主な人権〕                                                                             

① 自由権:誰にも(特に国家自治体にも)束縛や干渉を受けない権利

 *身体の自由:不法な身体拘束や拷問・残虐な刑を受けない,苦役に服させられない,自白を強要されない,適正な手続きを受ける権利や公平な裁判を受ける権利など

 *精神の自由:集会・結社・言論・出版・表現・思想・信条・学問・信教などの自由,通信の秘密など

 *経済の自由:財産・職業選択・営業・居住・移転の自由など

② 平等権:誰でも等しく法の適用を受けることができる権利

 *人種・信条・性別・社会的身分・門地などによるあらゆる差別禁止,両性の本質的平等

③ 社会権健康で文化的な生活を送るために必要なことを、国や自治体などに保障させる権利

 *生存権,教育を受ける権利,労働基本権(団結・団体交渉・団体行動権),勤労権など

④ 参政権請求権:国民が主権者として国政に参加したり、一定の給付や行為を請求したりする権利

 *選挙・被選挙権,国民審査権,住民投票権・憲法改正時の国民投票権,国家賠償請求権など

 

 

LGBTQについて考える

  先日出された先進7カ国(G7)の首脳声明では、ジェンダー問題に関し、LGBTQ(性的少数者)が暴力や差別を受けることのない社会の実現が表明されました。また芸能界や歌舞伎界などでも、LGBTQに関連した問題がマスコミ報道されています。

(1)LGBTQ性的少数者とは? 

  LGBTQとは、下記の単語の頭文字を並べたもので、セクシャルマイノリティ性的少数者異性愛に当てはまらない人)と同じ意味で使われる場合もあります。

Lesbian(〈レズ〉ビアン、女性同性愛者),  Gay(ゲイ、〈男性〉同性愛者),

Bisexual(バイセクシャル両性愛者),

Transgender(トランスジェンダー、体の性と心の性が一致しない人),

Questioning(クエッショニング、自分の性が決まっていない・分からない人)

* 2019年、博報堂DYグループLGBT総合研究所の統計によると、日本の約1割の人がLGBTQ(性的少数者に該当するとしています。

* 最近ではLGBTQ間の分断を避ける意味で、SOGI(ソギ,性指向及び性自認という語が用いられることもあります。

 

(2) 性の在り方セクシャリティsexuality)

 LGBTQの問題を考える場合は、a)体の性sex」、b)心の性性自認)」、c)性指向」、d)ジェンダーgender」も含めた幅広い概念である「性の在り方セクシャリティ)」という観点も考慮することが必要です。

 a)体の性・・・染色体や性器・性ホルモンなど、身体・生理的状態から判断される性。

 (例 )男性・女性・中間性など 

b)心の性・・・体の性とは別に、自分が認識している(心で感じている)自分の性。

 (例)男性・女性・中間性・わからない、など 

c)性指向・・・ 恋愛や性欲の対象となる性。先天的に備わっているもので、気分などで変わる好み(嗜好)ではありません。 

(例) ヘテロセクシャル(異性愛),ホモセクシャル(同性愛),バイセクシャル(

 両性愛),エイセクシャル(無性愛。性とは無関係)など

d)社会的な性ジェンダー性役割・性表現)・・・服装や言動、あるいは社会的な役     割などにみられる後天的に身につけていく性(差)。 

(例) 男らしさ。女らしさ。男は仕事、女は家事・育児。夫唱婦随。など

 現実には異性愛だけでなく、の4要素の組み合わせで、一人一人違った多様なセクシャリティが存在しています。(例)a「体の性」が男性の場合を挙げてみます。

・ a男性×b男性×c女性=異性愛,  ・a男性×b男性×c男性=ゲイ,

・a男性×b男性×c両性=両性愛,  ・a男性×b女性=トランスジェンダー

・a男性×bわからない=クエッショニング ・・・・・・・

 このような多様性ダイバーシティを理解しないで、男性と女性の異性愛のみに基づいた非科学的価値観でLGBTQを論じることは、「井の中の蛙」がよく知らない大海について論ずるようなものではないでしょうか。

 

(3)LGBTQに対する差別

 私たちが旧来の慣習や宗教などに囚われて、男性と女性しか存在しないという非科学的価値観(偏見)や単なる自分の好みから、性的少数者個人として尊重せず、異常者と見なして行動するならば、基本的人権(個人の尊厳、平等権、自由権生存権など)を正当な理由なくして侵害する差別になります。

(例)LGBTQの人に「キモイ」などの悪口を言ったりネットに悪口を書き込んだり、仲間はずれにしたりする。制服着用や健康診断、あるいは保健体育の授業などで「心の性」を配慮しない。婚姻や親権を認めない。就職試験時にLGBTQだとわかった時点で不採用にする。マンションの部屋を貸さない。LGBTQの差別解消を訴えるデモをしている人に、暴力を振るう。「LGBTQを認めると日本の古き良き社会が壊れる。」などと発言する・・・・・・

 

(4) 差別を解消していくために

 差別という問題は、「私は差別していない。」とか、「差別されている人はかわいそう。」など、個人的の問題ではなく、人権を不当に侵害している制度(規則、法律、社会)の問題です。女性差別に例をとって考えてみると、女性の方に男性より劣悪な労働条件(就職できない。非正規雇用。低賃金、昇進できないなど)を強いる不当な制度の下に、企業が利益の増大を図っていることがその本質です。男性が原因ではありません。人種や非正規雇用などの差別と同様に、低賃金による劣悪な女性の生活状況を見て、男性側には優越感差別意識が生じてくるし、女性側には劣等感自尊感情(自信)の喪失が生じてくるのです。労働者間に差別が生じると労働組合が弱体化し労働条件改善の力が弱まるので、賃金は上がらず企業の利益は増大していくのです。

 LGBTQ差別も、就職や同性婚を認めない制度によって生じています。同姓婚やLGBTQ差別禁止、あるいは夫婦別姓に対する制度法的に整備されてきている日本以外G7各国〈下表〉では、LGBTQ差別(以前は犯罪者や病人扱いを受けていました)が解消に向かっていることがその証左です。

(表)G7各国で、同性婚などの制度が法的に認められている(○)、

   認められていない(×

 

日本

日本以外のG7の国

同 性 婚

×

性的少数者の差別禁止

×

夫 婦 別 姓

×

 日本以外のG7の国:USA・イギリス・ドイツ・フランス・カナダ・イタリア(同性カップルに結婚に準じる権利を認めている)。法律で夫婦同姓を義務付けているのは日本のみ。                 <東京新聞web2023.2.7より作成>

 

 しかし日本国民の多くがLGBTQ差別を善としているわけではありません。次の【性的マイノリティについての調査】では、同姓婚の法制化には反対の2倍の賛成がありますし、差別禁止法の制定にも約9割の賛成があります。

 

【性的マイノリティについての意識】          2019年全国調査より

 同性婚の法制化に〈賛成〉は、2019年調査で64.8%、〈反対〉は30.0%。2015年と比べて〈賛成〉は13.6ポイント増加。20代の〈賛成〉は、2019 年調査で83.8%と高い。

 性的マイノリティ性的少数者に関わる施策については、回答者の87.7%が差別禁止法の制定賛成している。 

 

 以上のことから、国民の考えとは異なる非科学的保守的な(昔の制度を守ろうとする)政治が行われていることにLGBTQ差別の核心がありそうです。女性差別、あるいは非正規雇用の問題もすべて同じことですが、LGBTQ差別がない社会を実現するためには、私たちが差別的な制度を改善するための職場などでの活動を行うとともに、民主的な候補者に、積極的に投票棄権差別を助長する)することによって、差別を生み出さない制度をつくることが大切なのではないでしょうか。

子どもの心がわからない?

優等生が少年院に・・・

 A子は学習面でも部活面でも優秀な成績を収めており、親も自慢の優等生でした。出張が多い父親の分まで頑張らねばと思った母親は、人一倍熱心にA子をいろいろな習い事や学習塾に通わせてきました。しかし、A子は中学2年の夏頃から親に反抗するようになり、化粧や喫煙・夜遊びなどを始め、高校生になると暴走族に入りシンナーで身も心もボロボロになって少年院に入れられたのです。母親は「何一つ不自由なく育てどこに出しても恥ずかしくない子だったのに、悪い友達ができてから急におかしくなった。A子がちゃんと立ち直るまでは許せない。」と言います。A子も「立ち直って親を喜ばすようなことはしたくないし、かといってこのまま自滅していくのも嫌だ。もう死ぬしかない。」と言うまでになっていました。

 わかってくれたのは・・・

 A子が中学2年の頃になると、「うちの親は、私が何かする前に親が決めたことを押しつけるんです。だから家には居場所がなくなっていたんです。」と振り返るようになります。中学2年生(個人差はあります)という時期は、今まで大好きだった親に反発し、外の世界へと飛び出していく傾向を見せ始める点で、思春期の中でも特に注意が必要な時期だといわれています。小さな失敗も許さず、親の敷いたレールの上を歩くことを押し付ける親に反発するA子の心を受け止め、わかってくれたのは暴走族だけだったのです。

 言葉通りに受け取ると・・・

 子どもが親に反抗したり喫煙を始めたり、夜遊びをし始めた時に、親はどのように接すればいいのでしょうか。子どもに良くなってもらいたいと思うあまり、「親の言うことが聞けないなら出て行け。」などと言ってしまうと、子どもは言葉通りに受け取り、ますます親に反発し自暴自棄になってDVなども引き起こしやすいものです。子どもは自分でも悪いと思いながらも、親が自分を受け入れてくれるかどうか試していることが多いので、そのように言われると、「ウザい。どうせ私なんか要らないんだ。」ということになり、親と子の関係はますます悪化していくのです。

 本音を聴こう

 子どもの様子がおかしいと思ったら、子どもの本音を聴く努力を始めてみてはどうでしょうか。「何かあったの。」「どうしてほしいの。」と声をかけてみるのです。「うるさい。」「別に。」「ほっといて。」などと言われるかもしれません。「親に向かってなんていうことを言うの。」と腹を立てずに、腹をくくって反抗させてあげましょう。反抗期にある子どものレベルに合わせて売り言葉に買い言葉でやり取りするなら、親の貫録はなくなってしまいます。どんな子でも自分で解決していく力を持っています。それをそっと助けてあげるのが親の務めです。もし、子どもが頑張っても達成できない目標を親が押し付けていたなら、親子で話し合って目標を変えてみましょう。そのうち良い親子関係がつくられていくのではないでしょうか。

 このような問題でお悩みの方は、一人で悩まずにカウンセリングを受けてみてはどうでしょうか。気持ちが楽になるかもしれません。

 “ののはな”教育相談のHPnonohana.sunnyday.jpを尋ねてみていただければ幸いです。