やる気を育てる

 思春期には身体の成長に伴い、への目覚めが起こり、新たな欲求不満を感じるようになります。また、今までは親や先生の言うことをよく聞いていた素直な「よい子」が、自我が発達してくるにしたがい、自分を抑えつけようとするもの(親・先生・社会など)に対して反抗・攻撃するようになりますし、親よりも仲間とともに行動し社会性を高めていくようになるので、心理的な親離れが進みます。さらに、学校で教わる知識や技術の量が急増し、その質もかなり高度で難しいものとなってくるので、多くの子どもたちが劣等感に悩まされるようになります。これらの要因から、お子さんの心は「風邪を引いたライオン」のように、不機嫌で危険なものとなりやすいので、親御さんも対応に苦心されているわけです。

 さて、このような状態のお子さんに、親御さんがどのように声掛けをしていけば、「やる気」や「自尊心」を持てるようになるのでしょうか。

 そもそも自尊心というものは、親御さんが「無条件にあなたを愛している」というメッセージを、お子さんが生まれたときから送り続けることで育つということです。障害があっても、かけっこが遅くても、勉強ができなくても、性格が暗くても・・・、人と比べることなく、何があっても「今、ここ」にいるお子さんが、少しでも元気が出るような方向で支えていくという親御さんの一貫した姿勢が、お子さんの心に自尊心を芽生えさせるのです。「ちゃんと~できない子は嫌いよ。」というような条件付きの愛による声掛けでは、劣等感や優越感を育てることはできても、自尊心は育たないのです。

 一方、「やる気」については、「馬を水辺に連れていくことはできても、水を飲ませることはできない」という諺(ことわざ)がすべてを物語っています。勉強が嫌でたまらないお子さんに、「お父さんの後を継いで医者になって欲しい。」とか、「平均点も取れないなんて情けない。」というような親の勝手な思いを押し付けても、お子さんの「やる気」は出てきません。やる気のない子にやる気を教えることは誰にもできないのです。母親の病死をきっかけに、猛勉強をして医者になり多くの人を助けたという例でもわかるように、お子さんが様々な体験を重ねていくなかで、何らかのきっかけで心の底から「やる気」が湧き出てくるようになるまで、親御さんは待てばいいのです。

 とは言え、ただ待つだけではなく、日頃からお子さんが何に興味関心を示しているのかということを(親の思いは傍(かたわ)らに置いて)よく聴きよく理解した(信じた)うえで、お子さんの思いが実現する方向で支援していくことが大切なのです。

 つまり、親御さんは、日頃から「今、ここ」にいるお子さんの思いをよく聴き、よく理解したうえで、あなたを応援しているわ。私にできることがあったら何でも遠慮なく言ってねと言ってあげれば、お子さんの自尊心もやる気も育っていくのです。

 もし親御さんが、このような声掛けはできないと思われたなら、親御さんが抱えているご自身の思い(世間体や劣等感など)を見直してみることも必要かもしれませんね。

                林友の会「子育てQ&A」への投稿記事2021.6より